「遠い夢の中、弾丸、意識は外」
「障壁展開を忘れるなよ――――出ろ!」
――息を吸い、地を蹴り、俺は戦場へと躍り出た。
遠くで聞こえる爆音。
出た場所は煉瓦造りの建物の手前に露店のひしめく大通り。
しかし在る筈の活気はとうに消え失せ、周囲を満たすのは瓦礫と戦塵、散乱した商品類だけ。
その中を、ただ無我夢中で――アルクスらの背を追いかけ、走り続ける。
「ちょっと。緊張すごいじゃん、どうしたのさ」
「――話しかける余裕があるのかよ。ギリート」
「無いよ? 余裕なんて。ただ覚悟してるだけ」
「――」
〝少なくともお前は死ぬ、俺も死ぬ。――――そしてその恐怖と不安は、ここに居る皆が抱えているものだ〟
「ふふ――でもまあ、解るよ。集団演習や調練には参加したことあるけど、僕だってこれが初めてだったらビビってただろうから」
「初めてじゃないのか?」
「僕がなんで学校を休みがちだったと思う?」
「――お前、」
「そういうこと。ウチの大貴族の辛いところであり――――」
影。
『!!!』
それは屋根の上から襲い来る――敵影。
慌てて再度障壁を展開し、
「――強みでもあるっ!」
熱と炎が、頭上と視界を覆い尽くした。
「っきゃ――!!?」
「ッ……ギリートッ、」
「止まらず走るよ!」
駆け抜けた背後で更に聞こえる炎の嘶き。
魔波から敵の居場所を察知しようと躍起になったが――炎によるギリートの魔波で上手く感知が出来ない。
同時にそれは視界を遮られた敵も同様で、だからこそ背後の心配など不要なのだと思い至った。
糞――――まだ思考が遅い。遅すぎる。
だというのにギリートは、
「上々上々っ!」
酷く涼しげな顔で俺に追いつき、そう声をかけてきた。
「っ……」
「喋んなくていいよ。固まって動けなくなったり、恐怖で叫び散らしたりしてないだけ上等。そのまままっすぐ、しっかりお姫様を抱きかかえて進むんだ、アルクスの後ろを。敵なんて気にしなくていい。しばらくは君も」
「でも――」
「いいから――僕に守られるお姫様でいなよっ!」
ギリートが消える。
残影を追い視線を向けた進行方向で炎と鮮血が散る。
ギリートは一息の間に二人の男を切り伏せていた。
その先に見えるのはペトラ・ボルテールの銀髪。
彼女は俺の居る背後に一瞬だけ目を向け、すぐさま目的地へと走り始めた。
大丈夫だと判断したのだ。
アルクスの兵士長が、ギリートによる王女の護衛力を。
ギリートの放った魔弾の砲手が俺の背後に消えていく。
両脇では、同じ班となったアルクスと義勇兵たちが場の安全を確保している。
止まりかけていた足で地を強く蹴り、更に前へと進む。
左からの雷を誰かが防ぐ。
右から迫った何かを何かが防ぐ。
無数に感じられる光が、まったく意識の追い付かない俺の周囲を縦横無尽に飛び回る――
「大丈夫だよ。アマセ君」




