「見敵必殺」
二辻の風の刃は、ヒンコとワーヴローの二人が展開した魔法障壁によって受け切れられるまで――石の床材と共に、門の内側で油断しきっていた悪漢らを残らず切り裂いた。
「けけけかか……これから守ろうって街に対して随分手荒いな。ここぞとばかりにウサ晴らしかァアルクスよぉ? 普段ないがしろにされてる分の――」
「ヒンコ」
「――あん」
「海神の」
風の刃に、三角形に断たれた門。
木が軋みを上げ、ゆっくりと地に倒れた先から現れたのは――――広げた右手の上で水の魔力を圧縮しうならせる、マリスタ・アルテアスの姿。
「三叉槍ッ!!」
――風の牙が駆け抜けた痕を、水の三つ又が飲み込み尽くす。
目を見開き跳躍した乱れ髪のヒンコと違い、スキットルから一口あおったワーヴローは頬と腹部を大きく膨張させ――口から三つ又を上回らんばかりの砂嵐を吐き出した。
上級魔法が止められたことに目を見開くマリスタ。
「かっかァ! やるなワーヴロー――」
「お前はやれんようだな」
「!」
跳躍した乱れ髪の長身。
その正面に、翼を模した大剣を振りかぶるガイツ。
しかし、
(――遅せェよ!)
ヒンコは笑い、ガイツが一動作もせぬううちにナイフを振りかぶる。
黄緑に発光し高速微振動を始めた持ち手の黒いナイフを、瞬転空で飛び一瞬でガイツの心臓を――
――――狙った一瞬で、その体を両断されていた。
「う……うわああぁぁぁっっ」
「ヒンコさんがやられたァっ!!」
「馬鹿な、今あのバカでかい剣を小枝みてーに――」
再び構え、ガイツが鬼の表情で地上に疾駆する。
狙いはワーヴロー、マリスタと拮抗する砂嵐を放つ男の脳天。
「!」
気付いたワーヴローは押しかけていたマリスタとの鍔競りを解き一瞬で後退、応じ放った数発の砂弾の砲手をガイツが投げた大剣に弾かれたことで生じた砂煙に隠れ距離を取る。
その背後から、彼は首を落とされた。
「――――――、は。はは」
「……そんな姿になっても死ねんのか。つくづく魔術師とは嫌な生き物だな。『酒飲み』ワーヴロー」
「そうか……剣を投げたのは後ろを取るためだったか。取られんよう心を配ったつもりだったが……まさか風精化たァな」
砂煙に溶けていたかのように、ワーヴローの背後に現れたガイツ。
投擲し、またワーヴローの首を落とした大剣を彼は逆手に持ち、未だ自分を見上げる首だけの長髪に振りかざす。
「あの風の刃もお前か。大した手練れが育ったもんだ。お前は俺を知っているようだが、教えてくれねえか。最期にお前の――」
ドスリ、と。
風をまとった切っ先は、魔術師の頭部を粉々に吹き飛ばした。
「――実力者とみられる者は始末した」
砂煙の中、男は迅速な足取りで路地の出口へと引き返す。
数秒前に命を潰した者のそれとは思えぬほど、堂々と淡々と。
それがガイツ・バルトビア。
冷酷なまでの義勇の意志で翼のような大剣を操る、アルクスの兵士長。
「家屋は出来る限り傷付けるな。その範囲内で、出来る限り派手に――――門を取り戻せ!」




