表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
973/1260

「500人の戦い」




◆    ◆




「きっ……聞いてねェぞこんな数ぅぅううッッ!!!」



 人二人分ほどの高さのある王都ヘヴンゼル――東門から、悪漢あっかんの一人が冷や汗をかきながら内側へと転がり込む。



「お、おいマジなのか! マジでアルクスの奴らが……」

「ま、間違いねえ……あの人数が全員アルクスローブだ! 全員アルクスなんだよ!」

「馬鹿言ってんじゃねえぞ!? ボスの話じゃ、アルクスってのは少数精鋭しょうすうせいえいうたう連中で――」

「ああ、数頼みの軍隊とはげェって話だったはずだ!」

「どうなってんだよボォスッ!」

「おいどーすんだよ来たぞ来たぞ! 何も対策がねェ!」

「落ち着け。騒いだところでどうにもならねえ」



 眉の無いロングヘアの男が、手にしたスキットルを片手にらしながらゆらりと立ち上がる。

 すすけた色の前髪の隙間すきまからのぞいたうつろな赤黒い目に、男達は水を打ったように静かになった。



「ワーヴローさん、でも……」

「考えろよ。いくら数が多かろうが門はこの程度の大きさだ。一斉に来るにしても限度がある。五百人が一緒にはかかってこねえ」

「い、言われてみりゃあ……」

「くけけ、そん通りだ。なーにビビり散らかしてんだ戦う前からよ」



 ぼさぼさの伸び放題な髪をした長身の男が片手でナイフをもてあそび、建物ののきに座る男が笑う。



「ヒンコ……あんたは怖くねーのかよ。相手は……」

「けかか。おめーらだってウデ買われてここにいんだろが。ちったぁ金に見合った働きみせよォって気概はねーのかよ。だっせーな」

「同感だな、腰抜け共めが。俺はこんなにもワクワクしてるってのによ」



 ワーヴロー、ヒンコと呼ばれた男達。

 彼らがこの東門における精神的支柱であることは、誰の目にも明らかであった。

 ワーヴローはスキットルをゆらゆらとあおりながら口を開く。



「距離はどうなんだ?」

「ま、まだやぐらからローブが目視でき始めたくらいだ」

「マジかよ。遅いよ」

「いや、だから作戦が立てられるんだろ? いっそのこと、どっか隠れて不意打ち――」

「かこけ。げーよ」

「……え?」

「なるほどな。次元が違ったんだろォな、お前らと俺らとじゃ」

「あ、あんたら何の話を――」

「馬鹿が。目視なんかできたときにはもう遅(・・・・・・・・・・)()っつってんだ」

「――え、」




◆    ◆




「ここまで近付いても、障壁を展開する素振りも無い……か」

「奴等、門の警備兵や治安部隊を一人残らず排したらしいな。兵がいないから王都の防衛策への使い方を知らないんだろう」

「――好都合この上ない。離れてろ」




◆    ◆




「でも俺らも同罪だろ、けかか! 確認が遅かったんだからよ!」

「そして、あの男(・・・)が兵舎を丁寧ていねいに全潰ししてくれたおかげで、こっちは門の障壁を展開させることも叶わんと。ままならんな」

「の割には酒進んでんじゃねーか! かかかか」

「――そうだな。最近は傭兵ようへい共ばっかりだったが……アルクスとやり合うのは久しぶりだ」

「なに悠長なこと言ってんだよあんたらっ! ワーヴローさんっ、もう遅いってのはどういう――」



 ――男が発せた言葉は、そこまでだった。



 突風、そして――



ぐっ……がああああぁぁぁぁぁぁあああっっっ!!!?



 ――鮮血せんけつと悲鳴が、門を貫いた()き消える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ