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「ごひゃくぅ」




◆    ◆




「フェイルゼイン様! 敵が現れました!」

「ずわははははっ! きおったかきおったかアホなエサにさそわれてホイホイとォ!!!」



 背の高い木製もくせい椅子いすの上で、スーツを着込んだ小男が足をバタバタとさせて歓喜かんきする。



「敵は誰だ? 傭兵共か? それともアルクス共か?」

「ローブから……恐らくアルクスであると」

「場所は??」

「こ、この商業区の一番近くっ、東門とうもんです!」

「おおーゥ東門、東門か……ずわは、ずわあッははは!!! こうも想定通り動いてくれるとはなァ! まんまとこの商業区、放送局も近い東門を狙ってきおった!」



 鼻下にたくわえられ、口の端で真上に伸びた豊かなひげをいじりながら、目を上瞼うわまぶたにくっつけて笑い。

 ノジオス・フェイルゼインは、勝ち誇った顔で目の前にひざまずいかつい男を見下ろした。



「全く、少し公共放送であおってやっただけでこうも簡単に不穏分子ふおんぶんしが釣れるとは思わなんだわ。自分達に向けられた挑戦だとでも思ったのだろうなァ……自意識じいしき過剰かじょうな! あの放送の・目的は・貴様等などではないというのにそれにも気付かずずわははははははは!!!! 焦ってやってきおってからに! いいだろう! 死に急ぎたければそうしてやろうではないかァ……仕事だぞ貴様らッ!」



 ノジオスの声に応じ、部屋の暗がりから三人の黒装束くろしょうぞくが現れる。

 奇怪な呪文と紋様もんようの刻まれた白い仮面の者達に、ノジオスは勝気な目と白い歯をぎらりと光らせた。



「さっそく働いてもらうぞ。思い上がった馬鹿どもをみじんにしてやれ」

「あ、あの……フェイルゼイン様」

「なァんだやかましい。こいつらの実力はお前達も知っての通りであろうが。それにこ奴等だけではない、四つの門周辺にはこやつら以外の腕利きも置いている。数人程度のアルクスなんぞ問題にもならァん!!」

「……数人」

「んん? なァんだ、ずはは……もしかしてもう少し数がいたか? だとしても問題は無い。放送からのこのわずかな間で、十分な戦力など整えられるはずがないからなァ!」



 ピタピタ、と床の男の頭を叩きながら、机の上に置かれた真っ赤なワインに手を伸ばすノジオス。



「それも相手は少数精鋭をうたうアルクスだ、われらの敵ではないッ!! 多くとも十数人程度、何の問題にもならぬわっ、ずはははは!……それで? 正確な敵の数はどのくらいのものだ、んん?」

「て、敵は……っ」



 ――厳つい男が。

 ノジオスの手を頭に乗せたまま、青ざめた顔を上げた。



「敵は東門に……およそ五百(・・)の軍勢を集めていますッ!!!」



 吐血。



 まるで吐血のように、ノジオスは口に含んでいたワインをすべてぶちまけた。



「ごっっっ……ごひゃくぅぅぅぅううぅ!??!?!??!」


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