「義勇の翼」
「正確には、ペトラ班を中心とした義勇兵コースの者達が、だが。お前達は本隊が進入路の周辺の安全を確保してから動き出す、んだが……王女殿下。失礼ですが、英雄の鎧等、身体強化術についての心得はおありですか?」
「…………」
――ココウェルの表情が険しくなるのを瞬時に察知し、ペトラとガイツが頭を下げる。
まあ、こいつは使えないだろうな。
「そうなると、移動はどうなる? 強化されていない者に合わせていたら……」
「そりゃ君が抱えるしかないでしょ。お姫様抱っこで」
「……もう少し言い方を考えろギリート」
「ふむ……王女殿下。女性がよろしければ切り替えますが、いかがで――」
「いいわ。こいつで構わない」
ペトラの言葉を遮るようにココウェル。
いや、そこは普通に女性がいいのでは。なんで俺が。
「この中のメンツで、腹の中まで割れてるのはこいつだけだもの。一番気安いわ」
「し。承知しました。そう仰るなら」
ペトラが引き下がる。
王女様は我関せずとでも言いたげに目を閉じていらっしゃる。
お陰で変な視線が俺に注ぎまくりだ、畜生が。
「……微妙な空気になっちゃったね。今更だけどさ、君王女に何したの?」
「知るか。俺が訊きたいくらいだ」
「ふーん? ま、殿下にとっては命の恩人でもあるからね」
「では決まりだ。ケイ・アマセが王女を抱きかかえ、ヘヴンゼル学園まで運ぶ。ペトラ班の義勇兵コースの者は二人を警護しろ。一人たりとも敵を近付けるな」
『了解』
「はいな。隊列は指示いただけるので?」
「追って伝える」
「万事了解」
「では、全体での連絡事項は済んだな。質問のある者は?」
――沈黙の中。
一つの震える手が、ゆっくりと挙げられた。
「……何だアルテアス。また解らない言葉でもあったか」
「え、えっと、違いまして。色々、あるんですけど」
「……そうか。では答えようか、」
「え? あの、まだ何も――」
「貴様は死ぬ、アルテアス。少なくともな」
「――――は?」
――あまりにもあからさまな動揺を突かれ。
赤毛の少女はいよいよ、何も考えられなくなっているようだ。
「死ぬさ。そんなに強張った体と心で、戦場で動けようはずもない。加えて貴様はまだ学生で、それも半年ほど前に義勇兵コースになったばかり。生き残る要素などあろうはずもない。そして何より、」
「な――なんなんですか、そんなこと言ったら――!!」
「お前は人間だ。人間はいつでも死ぬ可能性のある生き物だ。だから死ぬだろうな、恐らく」
「…………へ?」
――成程。
回りくどい言い方をするものだ、この男も。
「な、何言ってるんですか……? そんなのみんな、」
「そうだ。お前も俺も人間だ。だから少なくともお前は死ぬ、俺も死ぬ。俺はそう思って戦場に臨んでいる。そしてその恐怖と不安は、ここに居る皆が抱えているものだ」
「…………」
「だが思い出せ。貴様も、貴様なりの覚悟があったからこそここに立っているのだろう。だから思い出せ――――お前達の決意を。お前達の覚悟を。きっとそれが『義勇』と呼ばれるものなのだと、俺は思う。戦場に持ち込むのはそれらだけでいい…………答えになったか? マリスタ・アルテアス」
「………………。はい!」
大きく息を吸い込み。
義勇兵は、意志に光る目でそう応えた。




