「Interlude―12」
「……あいつ、結局最後まで逃げなかった、よね。たぶん。もしかしたら、あの人たちの理不尽なやり方に、負けたくなかったんじゃないかな?――って、それただの意地じゃん!?」
「意地……」
「だーもー、オトコノコってほんとメンドい!! すぐ意地の張り合いするし、バカだしナルシストだし! 振り回すなってのわたしをー!」
ビージを相手に大立ち回りをした自分を完全に棚に上げ、立ち上がって髪をガシガシとかくマリスタ。ヴィエルナも生徒からマリスタの様子を一部始終報告を受けていたのだが、黙って受け流すことにした。
「……振り回されてるの?」
「私あいつを任されてるんで!! シャノリア先生に!!」
「ディノバーツ先生に?」
「ま、そこはいいの、そこは。――でも、ハァ。じゃあ、これからもあんな小競り合いが起きるのかなぁ。ケイったら、ホントに義勇兵コースでやってけるのかしら。スッゴク心配、私」
「…………ほんとに意地。なのかな」
――ヴィエルナが初めて圭に注目したのは、これが初めてではなかった。
始まりは、義勇兵コースの演習授業の時。テインツ・オーダーガードと文字通り「死闘」を繰り広げていた圭を、ヴィエルナはずっと見ていたのである。
彼は、全く魔法を使いこなせていなかった。
身体能力でも、技術力でも。あらゆる面で、彼はテインツに劣っていた。
(でも、)
――圭は、決して諦めなかった。
ただひたすらに何かを見据え、テインツを倒すことに全霊を注いでいた。
圭が何を見据えていたのか、ヴィエルナには測り知れない。
(彼は――――一体、何に立ち向かおうとしていたの?)
だがだからこそ、彼女の中である確信が生まれる。
少なくとも圭が打ち克とうとしていたものは、初めからテインツではなかったという、確信が。
自分の傷も顧みず、また命をとるつもりもなかったであろう圭が、一体何を求めてそこまで勝利にこだわったのか。
(人が逃げない理由は二つだけ。逃げられないか、逃げたくないか。逃げたくないのは……彼が何かと、戦っているからだ)
マリスタは、それを男の意地だという。
だがそれは、ヴィエルナが欲したような納得を与えはしなかった。
そう思うに至り――風紀委員ヴィエルナ・キースのなかに、ある使命感が生まれた。
「…………マリスタ、知ってる? 彼が何と、戦ってるか」
「へ?」
「……解んない、よね」
自答するヴィエルナ。
当然。彼女は既に――――答えを必要としていない。
「私、訊いてくるから。だから、待ってて」
「え? ちょ、ヴィエルナちゃん、それどういう――」
「あ。罰。反省文、これ。書いてて」
「注意だけって言ったくせに?!? あ、ちょっとヴィエルナちゃん、待って――ってば……」
どこからか一枚の羊皮紙を取り出し、ヴィエルナはマリスタを置いて指導室を出ていく。
彼女は能面のまま、手首の部分に小さな魔石のついた黒い革の手袋を、懐から取り出し。
「…………私、君を知らなきゃ。そんな気が、するの」
それらに力強く、手を滑り込ませた。




