「営みに埋もれ」
『考えない? 「自分はどうして、この世に生まれてきたんだろう」って』
…………不安に、なった。
「わたしはどうして生きるのか」。
考えるさ。
命の意味なんて、人間なら誰しもいつかは己に問うだろう。
問うて問うて、でも答えが出る前に現実が思索を追い抜いていくだけ。
誰もが美意識や美学、信念に殉じて生きられる訳じゃない。
だから不安になった。
そうして忙しい人間が、殊更生きる意味なんてものを悟ったように口にするとき、なんてのは――
「……縁起でもないことを言うなよ」
『え?』
「物語なんかでよくあるパターンだ。そういう悟ったような言葉を戦場で口にした奴は、結構な確率で命を落とす。その辺にしておけ」
『……命を落とす、かぁ。どんな感じなんだろうな、死ぬのって』
「だから……」
〝けいにーちゃん〟
……痛いさ。
痛くて痛くて、苦しくて苦しくて堪らないに決まってる。
だからもう――あんなに苦しい思いは、絶対お前にさせたくない。
「…………」
『というか、それこそ不吉なんですけど。わざわざフラグ立てないでよー』
「心配するな。次こそ守る」
『ん? 次……』
「幸い同じ班だ。死にそうだったら守ってやれる。俺がお前を死なせない」
『……へーえ。頼もしいこと言うじゃん。でも――それは私も同じだよアマセ君。もし君の命が危なかったら……私が必ず君を守る。約束』
「……期待しないで待ってるよ」
『もう。ホント、いちいちヒネた言い方するんだね。そこも君の味だってマリスタちゃんは言ってたけどね』
「何の話だ」
『ふふふ』
『かなめの御声でいちゃつくな学生共』
『えー止めないでくださいよボルテール隊長ー。あもしかしてうらやましいとか?』
『着いたら覚えていろイグニトリオ貴様』
『・・・・みんなにきこえるのわすれてた・・・・』
……消え入るような声と共に、リリスティアからの通信が切れる。
早めにフラグが回収されて、むしろ良かったんではなかろうか。
◆ ◆
サイファスの言っていた通り、ここまで襲撃は一切なかった。
召喚獣による移動が存外に速かったのと――もう一つ、あの高速移動中、全方位にアルクスが目を光らせていたのもあるだろう。
ローブに組み込まれているかなめの御声を聞いていると、このスピードで進軍しながら退路の確保や魔波妨害の感知なども同時に行っているようだ。
陣立ても、プレジアで習った実践演習の中に含まれてはいたが――この大きさの陣となると知らないことも多い。
召喚獣を降りてから――陣を敷く場所をアルクスが定めてから一時間。
目の前には、いわゆる映画で見たような野陣が出来上がりつつあった。
「医療班、整備完了です」
「食糧管理も終わったぞ!」
「武器の手入れ、他に不安がある奴はいないだろうな! ローブももう一度点検してくれ!」
「王都内部の街路図、しっかり頭に叩き込んだか学生共!」
「オッケーよ! 外には音一つ魔波一つ漏れてない!」
「敵の気配も無かった!」
「了解、っと――――偵察が戻って来た!」
『!』
『集合』
フェイリー・レットラッシュのかなめの御声にガイツが短く応じ、全員が陣中央の開けた場所に集う。
運んでいた資材を抱えたまま、俺もその中に集まった。
「状況を報告しろ」




