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「風の進軍」



「ああ。空中を移動するならまだしも――王都の四方を取り囲む森にまぎれて、人では追いつけない速度で移動するならなおさらね」




◆    ◆




耳に風が叫ぶ。

 眼前に、まるで森の木々が俺を避けていくような光景が展開されている。

 そして――それを認識するのすらやっとな程、顔への風圧と揺れる四肢ししに力を籠めることに精一杯せいいっぱいだった。



 視界を下ろせばそこには手綱たづな

 そして白い体毛に覆われた――――俺の乗っている(・・・・・)とらのような――召喚魔法担当教師、サイファス・エルジオの召喚獣。



 プレジアを出て早一時間。

 俺はアルクス・義勇兵連合軍と共に、プレジア直下に広がる広大な樹海――ベシラード大樹海を王都方面へと疾駆しっくしていた。



 次々と前方に迫る鬱蒼うっそうとした木々を、まるで庭を駆けるかのように避け、とても人では追いつけぬ速度で進む召喚獣。

 乗り心地は快適とまではいかないが――尻の皮がムケそうだ――これならば徒歩二日の距離を三時間で進むというのにも納得がいく。線となり過ぎていく左右の光景は、特急列車に乗った時のそれに近い。



魔波妨害ジャミングのため転移魔法てんいまほうは使えない、かといって召喚獣で空を進めば目立ち過ぎる――それ故の進み辛い陸路だ。



 ……目を細め、わずかに体を起こして前を見る。



 この先に戦場がある。

 俺の求めた、常に死と隣り合わせの状況――



『大丈夫? ケイ君』



 羽織っているアルクスのローブに施された金の刺繍ししゅうが光り、馴染みのある声が聞こえてくる――同じ班になった、リリスティア・キスキルの声だ。

 恐らくすぐ後ろにいる。



「――何がだ」

『不安そうに見えたから』

「みんな同じようなもんだろ。なぜ俺に」

『心配してるんだよ。ケイ君にはほら――『痛みの呪い』があるじゃない?』

「別に。もう気にしていても始まらない」

『……ならいいけど』

「そんなことより、なんでお前までが戦場に……」

『? なんで? 私、一応これでも実技試験じつぎしけんで準優勝してるんだからね、こないだの。実力なら君と張るよ?』

「……いや、なんでもない」



 ……うっかり、妙な心配を口走ってしまった。

 変声石(サリダクト)なんて便利なもので声が変えられると言うなら、せめてアイドル活動してないときはずっと変えたままでいてくれないものか。

 どうも調子の狂う。



『……ありがと』

「あ?」

『心配してくれてるんでしょ。でもご安心を。私、ちゃんとアイドルと義勇兵を両立させてますから』

「とんだ文武両道ぶんぶりょうどうだ」

『でしょ? ……それに。私もこの国を、この国に住まう人達を……みんなを、壊させたくないって思うから。それが私の命の意味なの、きっと』

「……命の意味? また妙な言い回しを――」


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