「召喚術師サイファス」
マリスタが固まる。
初陣が陽動……しかもそれがオトリだなとど言われれば無理もないか。
「あ、あああ、あの。それってその」
「……間違えるな。オトリとは命を犠牲にする者のことではない。敵の目を引き付ける者のことを言うんだ」
「え……あ、ん?」
「別に死ねって言われてるわけじゃないってことだマリスタ。少し落ち着け」
動転しているマリスタを見かねたか、サイファスが背後から両肩に触れ、揺すり諭す。
ガイツが再び溜息を吐いた。
「まあいい、子細は追って伝える。話を戻すぞ――説明したように、陽動部隊に敵が目を引かれているうちに学園区を制圧。陽動を引かせてヘヴンゼル、グウェルエギアを第二拠点とし、有志を募って更なる作戦を練る。詳細は陣立ての折に話す。質問のある者は?」
「はい兵士長。移動手段は――」
ギリートがひょいと手を挙げる。
そう、ずっと考えていた。
弱っていた兵士が二日がかりで進んだ道だ、少なくともその半分程度はかかるのではないだろうか。
「――やっぱりアレです?」
「そうだ。それが最速だ」
「……アレ?」って何ですか?」
マリスタと声が被ってしまい、自分でも思ったより顔が歪んだ気がした。
それに気づいたらしいマリスタが応じるようにしかめ面を返して――
「その為にいるんだろ? 俺ら召喚術師が」
――一転目を丸くして、ガイツの横に歩み出たサイファス・エルジオを見た。
「え……もしかして、サイファスの召喚獣で?」
「さすがに、この数を運べる飛行獣なんかは持ってないけどね。それに目立つし」
「サイファス・エルジオの召喚獣で地を駆け、今より三時間後には王都周辺に着く」
「はっや……!?」
「まずは近辺の森に潜み、陣を築く。すべてはそれからだ――くれぐれも、振り落とされることなど無いようにしてくれ」
「ふ……」
「では行くぞ。移動の際の役割は外で話す」
アルクス達が背を向ける。
余韻も決意も何もない、まるで日常の一部であるかのように戦場へ向かう背姿。
義勇兵コースの者達は彼らの後ろを、たどたどしい足取りで追いかけていく。
思えば、外に出るのは随分久し振りだ。
「よ。よーし……いよいよ始まるのね」
「気合い入れすぎて空回りすんなよマリスタ」
「ふ、ふんっ。うっさいのよロハザーっ、そんなこと…………あるかもしんないけど」
「正直か」
「ホラ、肩の力抜け。まだ移動だけだ、王都までは敵との接触は起こらない」
「……そう言い切れるのか?」
「ん?――おお。君から話しかけてくれたのは初めてだな」
サイファスが笑う。
何故かその顔が、少し気に食わなかった。




