「ほころび、ほどけ、」
「……イグニトリオ。アルテアス。ディノバーツ。そしてここに集まったかつて貴族だった者達よ。先に訊いておく――――今の演説を聞いて、少しでも心揺らいだ者はいるか?」
「いるワケないッッ!!!!」
マリスタが吠える。
だが本当にそうだろうか。
アルクスの目が光る。
ギリート、シャノリアはともかく、集った者達の中には幾人か――既に飲まれてしまっている者がいるような気がする。
恐らく、そのような者に目星をつけているのだろう。
ノジオス・フェイルゼインなる小男の狙いは貴族を焚き付けることだけではない。
「貴族が裏切るかもしれない」という疑念を、「平民」に抱かせること――この国難に、リシディアの人々の分断を煽ること、団結を妨げることが主目的だろう。
そして――――状況は昨日より、だいぶ悪くなっているようだ。
「あの……兵士長。今みたいな映像が魔視機で流れたってことは……」
「…………そうだ」
切迫した表情でおずおずと話しかけたロハザーに、学生たちを一通り見渡してからガイツが応じる。
「奴らは既に、放送局をも陥落せしめたということだ。その他放送局もすべて放送を停止している。王城以外をすべて落としたという奴らの言葉を、ひとまずは信じざるを得ない」
「くそ……!」
「だが悪いことばかりではない。悲観するな、ロハザー・ハイエイト」
名を呼ぶのはペトラ・ボルテール。
「あの映像から判ることはまだある。どうやら奴らは、正当性を主張して王位に就きたがっている。つまり――――むやみやたらに国民を傷付けることはしないということ」
「! じゃあッ、」
「ああ。私達の家族は、ちゃんと生かされている可能性が高いということだ」
数人が、息を吹き返すように深く呼吸するのが聞こえた。
ペトラは口元に笑みを浮かべ、更に続ける。
「ここにはアルクス、義勇兵コース、そして教師陣を含め、実に様々な境遇の者が集まっている。だからこそ、先の映像で悪の親玉が放った言葉は最大限の効果を私達に与えている」
ペトラが歩き、ロハザーの――集まった者達の肩に手を置きながら、その間を通り抜けていく。
「焚き付けられた貴族だけではない。これまで貴族に虐げられ憎み合ってきた貴族以外の者達や、現リシディア王朝に疑問を持っている者。そうしたすべての者達の分断を煽るためにこそ、あの映像は全国に向け放送された。……でも私は問いたい。今ここに集まる私達は――――最早この程度の分断に引き裂かれる程度の存在か?」
――それぞれが、それぞれと目を合わせる。




