「いたい」
「……私、顔。何かついてる?」
「ヴィエルナ。お前手足は大丈夫なのか」
「うん。治癒魔石のおこぼれ、もらったから」
「……本当にすごい魔石だったんだな、アレ。お前の治療にまで回されるとは」
「俺も、アレがなかったら命危なかったかもしれねえ。魔石様様だぜ」
ロハザーが、アヤメに斬られたというわき腹を擦りながら言う。
確かに……こいつは確か胴体を斜めに両断されかかったんだったか。言い方は悪いがなんで生きてるんだこいつ。
「何で生きてんだとでも言いたそうな顔だな」
「……そんな具体的な顔してたか」
「分かりやすいんだよ顔が……ま、でもお前もうすうす勘付いてんじゃねえの? 俺達『魔法使い』は死ににくいって」
「それは……」
……感じたことは、ある。
そもそも英雄の鎧にしたって、大きい目で見れば「死ににくくなる魔法」だ。
そしてナイセストとの、アヤメとの戦いで感じた、命を魔力に転換している気配。
曖昧な理解だが、魔力が生命力と密接に結びついている以上、魔力を鍛える行いはそのまま、命を鍛えることに繋がっているのではないだろうか。
「『魔力と命の繋がり』は今でも研究が続けられてて、詳しいことは解ってないんだけどよ。魔力や魔力回路を鍛えてる人間は、それだけ病気にもかかりにくいらしいぜ。そして」
「魔力回路や魔力、強い人、ケガにも強い。出血、抑えたり、命の維持を、手伝ったり。便利」
「ま……いいことばかりでもなかったらしいがな。実際は」
「どういうことだ?」
「確かに、魔力のある人間は死ににくくなる。だが戦場ではそれが仇になることもある。例えばヴィエルナは……」
ここで、ロハザーが意味深に言葉を切った。
話すのを止めた、というよりは、話せなくなった、とでもいったような風だ。
ロハザーの視線を受けたヴィエルナが口を開く。
「……私。ナイセストに手足、落とされた時。ずっと意識があったの」
「! な――」
「意識を失ったのは、保健のリコリス先生が意識を奪う魔法をかけた時。黒い煙が、ゆっくり視界を埋めていって……」
「ちょっと待て。じゃあ何だ、お前は手足を斬られた激痛を感じたまま……!」
「大丈夫。戦いの興奮とか、びっくりしたの、とかで。そこまで感じなかったよ」
「やせ我慢すんなよヴィエルナ。治療まで叫びまくってたじゃねーか、リコリス先生の水泡の中で」
「……! じゃあロハザー、お前は」
信じ難い思いでロハザーを見る。
彼はしかめ面で鼻を鳴らした。
「まぁな。でも俺もそれどころじゃなかったよ。自分の胴体がちぎれかけてるなんて早々体験しねぇからな。体の感覚がおかしいのにだいぶ助けられた」
「逆に言えば、痛覚、機能しないほど、危なかった。ってことだけど」
「ていうか、それ言うならお前だって腕ぶった切られてたろ、アマセ。あの時は痛みがなかったのかよ?」
「あのときは……」




