「めまいの中心に位するもの」
〝解るな? 圭〟
「あー、そうなんだ。そんな所じゃないかなとは思ってたんだけど、へえ。なーんか予想通りだとシラけちゃうなぁ」
「それなのか? お前がずっと俺に伏せていた情報は、天瀬慎侍を知っていることだったのか!?」
「そんな驚くこと? 広いといっても世界はまあるいんだ、僕が君の父親を知ってること自体はそう驚く所じゃなくない?」
「っ――」
――普通なら、そうだ。
だが俺は――俺の父は事情が違う。
〝―愛依を守るのが、お前の役目だ〟
だって俺達にとってここは異世界なのだ。
魔女の力を介せねば、本来その存在を知ることさえ出来ない筈の場所。
生まれも育ちも向こうの世界の俺の父が、なんでこんなどことも知れない異世界の人間の口から――――
「――驚くに決まってるだろう。誰がこんな所で父親の名を聞くことになると思う」
「僕もさ。父の話に出てきた人間の家族らしい男子と相部屋になるなんて、想像もしなかった――――共闘したところまで父と同じだ」
「……は? きょう、、」
「共に闘う、共闘。……君の父親は、二十年前に魔女との戦いに赴いてる。傭兵として、当時から王国騎士だった僕の父と共に魔女と戦ってるんだよ。それらしい話、何にも聞いてないの?」
……頭が追い付かない。
追いつかないのに、信じ難い言葉ばかりが次々と脳に叩き込まれ、刻まれていく。
〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
何故、リセルは俺を知っていた?
父はリセルを知っていた?
それはどこまで? 母は? 愛依は?
なぜ俺は――何も知らないまま育てられていた?
「…………その様子を見る限り、アマセシンジは本当に君の父親みたいだね。じゃああの舞台で僕に言ったことは一体何だったのさ? ねえアマセ君」
「……何?」
「頭働いてないみたいだから言うけど。君、あの時舞台の上で『魔女が俺と共に立った』、みたいなことを言ったんだよ? 共に立つ、それって魔女と協力関係にあるってことだよね。魔女と戦争してた父を持つ君が、今じゃ魔女と共に在るって……踏み出せないんだよね僕、君の得体が知れなさすぎてさ」
「…………、」
「ま、言っても二十年たってるんだけどね。立場が逆転するには十分すぎる時間ではある、だから――――ひとまず僕が訊きたいのは一つだ、アマセケイ。『君がここにきた理由は何だ?』」
「!」
――もう何度も体感した重苦しい寒気が、首筋から背中へ抜ける。
眼前にはギリート。
その左手は腰に差された魔装剣の柄に置かれ、その目は嫌というほど真摯に、そして切実に――殺気に満ちている。
命を握られた感覚。否、命を取られまいとする感覚。
場違いな程の――文字通りの真剣で、ギリートは俺を見つめていた。
「…………分かった。ちゃんと教えるよ。俺がここに来た訳を」




