「この呪詛は俺が俺の為に」
「復讐だけに自分を縛り付けないで。あなたにはそれ以外の可能性だって数えきれないほどたくさんあるの……だって解ってる? どれだけ復讐に、非情に徹しようとしたってあなたは――それに一度だって成功してないんだよ。だからあんなに、あなたの周りは友達で溢れてるんだよ」
髪を梳るシャノリアの手。
鼻で感じる温かさ。
それがどこか、
〝圭。いつも愛依を守ってくれてありがとう〟
いつか感じた、誰かの暖かさに似ていて。
「――――、っ」
〝生きていてくれて、よかった〟
――――――知らず、伸ばしかけていた腕を慌てて、そっと引っ込める。
落ち着け。
思い出せ。
どうしてお前がここにいるのかを。
思い出せ。
こうした甘さをこそ、俺はアヤメに諭されたのではなかったかと。
俺は復讐――――
「これ以上自分を偽らないで」
「――――」
「あなたはまだ十分引き返せる。いいえ、無意識に引き返せるところで留まってるんだと思う。あなたはまだ誰も私怨で殺してない。解ってるのよね、それをしちゃえば引き返せなくなるって。誰も望んでいないのよ。私達も、あなた自身も、そして――――あなたの家族もだよ、ケイ!」
死ね
――――――違う。
「違うよ」
「……え?」
「違う。俺の家族は…………復讐を望んでる」
「こっちを見てケイ、それは…………!」
シャノリアの両肩に手を遣り、体を離す。
薄暗い部屋の中、俺を見るシャノリアを真っ直ぐに見返す。
「ずっと囁くんだ。俺の中で、カゾクの言葉が俺の一部になってるんだ」
「……何を言ってるの?」
「ずっと望んでる。自分達を殺した者に報いを与えろと呼んでる。聞こえるんだ。鳴り止まないんだ」
「そん……!!――ケイ、聞こえる? 私の声が聞こえる!? ケイ! 嘘、こんな静かに発作が始まるなんて」
「始まってないよ。この声はずっと前から俺の傍にあったんだから」
――――シャノリアを離れ、頭を大きく振る。
「ケイ――」
「霊魂なんて信じない。死者の言葉に縛られているつもりもない。でもそれじゃあ先生、教えてくれ。――家族を殺された俺の気持ちは一体どこ行くんだ?」
「――!」
「踏み止まっている俺も確かに俺だろう。でも復讐を望む俺も確かに俺なんだ。そしてそうであるならば……俺の選択をあんたに指図される謂れはない。踏み込み過ぎだぜ、あんた」
「…………」




