「Interlude―10」
「知ってる。だってテインツ君の相手の男子、私が面倒見てるんだもん」
「……面倒?」
「うん。ケイ・アマセ……知ってる?」
「うん。風紀委員で、調べてるから」
「調べてるって……ホントにそんなことしてるの?」
「私は、反対してるんだけど。委員長、命令だから」
「命令ねぇ……なんか会社みたいね。息苦しくないの?」
「ちょっと。でも、自分で希望した委員会だから。アルテアスさんは、」
「マリスタでいいって。もう友達なんだし!」
「友達は早いよ」
「そこ否定するゥ?!」
「ふふ。でも、そうだね。私も、友達になりたいから。じゃあマリスタって、呼ぶね」
「うんうん! もうズバズバ、呼んじゃってくださいな」
「ありがとう。……マリスタは委員会、何?」
「う。私は……環境委員会、かな?」
「……疑問?」
「あ、あんまり活動に行けてなくって……」
「……サボりは減点」
「ぁいや、ちが……ホント、たまたまだって!……その、居残りとか補習とかで、」
「なっとく」
(なっとく早っや……)
「私、貴族だけど。学校のために、風紀を整えたいって気持ちが、一番だから。……みんなが言ってること、やろうとしてること。あんまりよく、解ってなくって」
ヴィエルナが視線をテーブルに落とし、もじ、と手を動かす。
マリスタはその仕草の女子力に若干感嘆しつつ、思考をヴィエルナの言葉にシフトさせた。
〝――アンタは知らねぇかもしれねぇけどな。――気楽なもんだぜ。道楽で魔法学校に通ってるアンタみたいな奴は〟
「………………分かんない、私も」
違う、と声を大にして言いたかった。
でもどこか、ロハザーの言葉を真っ向から否定できないマリスタがいた。
プレジア魔法魔術学校に入学したのは、間違いなくマリスタ自身の選択だ。
魔術師コースの選択も決して消去法的理由からではない。兄妹のいない自分が、いつかはアルテアス家を背負って立つ人間になるためにと、幼心ながらそれなりに考えて下した決断だ。
(…………でも、私は出来てない)
家を背負って立つ。
いち少女が描く将来として、それはあまりにも現実味のない話。
道標もない茫漠たる「可能性」という世界を歩くのに、幼い少女の足はあまりにも頼りない。
いかに大貴族の生まれであろうと。マリスタもまた、眼前に広がる可能性の広大さに飲み込まれ、目的を確かに定められない――――所謂、「ふつうの学生」でしかないのだ。
故に彼女は、何を知ればいいか分からなかった。
貴族制度変遷の経緯も。
未だ残る貴族と『平民』の根強い対立も――――何も知り得なかったのである。
「…………でもね、ヴィエルナちゃん。私今日、初めて『分かんない』って思ったの」
「……?」




