「びっくり威光」
◆ ◆
「……出ろ」
「『何をしている』、とさえ聞かないわけか。余程急所を突かれたらしいな」
「ここを出ていけッ! 許可も無く機密情報も存在するアルクスの詰所へ押し入りおって、ただで済むと思ったら――」
「大間違いですよ。オーウェン・アルテアス」
「!」
――俺を見たまま。
オーウェンの顔が、禍々しいまでの苦渋に歪む。
「……王女殿下」
「話はそこの学生に聞かせていただきました。ここを開けなさい」
「……どんな話を聞いたか知りませんが、ともかくそれはすべて誤りで――」
「開けなさいッ!!!」
一喝。
相手が相手であるからか、それとも無駄に威厳のあるこの声によってか――実際の所、この声の持つ厳かさとでも言うべき圧に、俺自身も驚いている。中身はアレな癖して――オーウェンは俺に向けていた怒気がまるで嘘であったかのように口を引き結び、沈黙してしまった。
「何事ですかっ!」
オーウェンの後ろ、肩口から覗く銀髪。
兵士の聞き取りが終わったのか、駆け付けたペトラ・ボルテールは目線を俺とオーウェンの間で行ったり来たりさせ、目を瞬いた。
「アルクスの兵士長ですね? そこな女性」
「!?……は。はい。そうですが」
「開けて差し上げるんだ。兵士長」
「は……ははっ!」
ペトラが扉の中央に飛ばした光が、波紋のように広がり。
ドアノブの無い扉は音も無く開かれた。
現れ出でたるは、――十分過ぎる程の威光をその目に宿した、リシディア第二王女ココウェル・ミファ・リシディアの姿。
こいつ、ホントに喋らなければ一級品だな。
「殿下――」
「バジラノが国境線に。賊が王都に。それぞれ攻め入っているのですね?」
「――その通りです」
「何故真っ先にわたしへ報告に来ないのです」
「誤解です殿下。我々の下に情報が届きましたのもつい先ほどで、その信憑性も含めて協議を行う必要があり――」
「何の協議です? 『我々』に利する方向に働くよう、わたしとの交渉の段取りを整える為ですか? リシディアはずっとアルクスを認めてきませんでしたからね」
「殿下、そのような――」
「それともリシディアが滅亡した暁には、わたしの塩漬けの首を手土産にバジラノへ走るおつもりでしたか? 状況を鑑みれば、わたしの情報はまだリシディアに届いていない可能性もある。都合の良かったことでしょうね」
「…………成程。そのような妄言で殿下を誑かした訳か」
オーウェンが憎々しげに俺を見る。
しかし、そんな無礼を王女は許さない。
「控えなさいアルテアスッ! 今は私が話しているのですッ」
「っ…………」




