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「火事場、威を借る魔王」




 ――どんな神経してたらここで笑いが出んだよッ!



 勘違いするなファレンガス・ケネディ。私は――



「うお……なんか職員室もおアツいぞ、アレ学長……とケネディ先生か? 何話してんだ」

「…………ケイ、どう話すか(・・・・・)は考えてあるんだよね?」

「――――」



含み(・・)のあるマリスタの言葉に、一瞬だけ立ち止まる。

振り返り目を合わせると――マリスタは、俺が頷くよりも早く笑い、「OK!」と勝手に納得し、サムズアップを俺の前に突き出した。



「そういう目ェしてるときのケイはなんか策がある!」

「……あのな、そういう偏見を俺に――」

「泣かしたら許さないかんね!」

「――……っ、」

「私こっちに残るから。後よろしく!」



 マリスタがきびすを返し、職員室の引き戸の裏に張り付きながらシッシと追い払うように手を振る。

 ……また変な仕事を俺に押し付けやがって。



「アマセ急げ。案の定だ、この混乱でアルクスは一人も居やがらねえ。今の内だ」

「……ああ」



 ロハザーに促され、共に職員室に併設へいせつされたアルクス詰め所の中へ――



 ――ロハザー達が入ってこない。



「……おい。どうしたロハザー。何ドアの脇を固めてる」

「馬鹿。俺ら一応王女殿下(おうじょでんか)を保護してる風紀委員会の一員だぞ。殿下の今の状態を知らねーわけねーだろが」

「それに、俺達は偶然殿下と知り合えるような強運ヤローと違って面識めんしきもねェんでな。委員長がどんだけ面会しても口もきいてもらえてねえってのに、下々が言ったところでより口を閉じちまうだろ」

「……ついでにアルクスの詰所に無断で踏み入ると風紀辞めさせられそうだな」

『それもある』

「…………」

「ってなワケだ。王女との話はおめーに任せるぜ。アマセ」

「とっとと行け役得ヤロー」

「ひがむなビージ」

「うるせー」



 ……どいつもこいつも。



 俺ばっかりに責任を押し付けやがって、畜生ちくしょうめ。




◆    ◆




たった一日と少し過ごしただけなのに、すでに懐かしくさえ思えるアルクスの詰所に、足を踏み入れる。



 小ぢんまりとした部屋には扉が四つあり、一つはこの部屋よりはるかに広い会議室、もう一つは武器庫へと通じているらしい。

 そして、残りの二つは――



「…………ココウェル、起きているか。俺だ。ケイ・アマセだ」

「!」



 気配と椅子の動く音で、ココウェルのいる部屋は知れた。

 ということは、もう片方の部屋にはアヤメがいるということだが……厳重に拘束されたあいつに何が出来る訳でもないだろう。

 俺は――



〝泣かしたら許さないかんね!〟



 ――言葉が、のどに詰まる音がした。気がした。



 俺が王都へ行きたい理由。

 それはリシディアの為でも、ココウェルら王族の為でも何でもない。



 国境くにざかいと違い、王都に――俺の手が届きそうな場(・・・・・・・・・・)()に、戦いが転がっているからだ。



〝影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!〟


魔弾の砲手(バレット)も、打撃も――今使える全ての手段は、どうやら俺には届きそうもねえぞ。アマセ〟



 更なる強さを――あの赤髪あかがみの男やトルトのような「本物」の強さを手に入れる為に、必要な戦いが。



 何を躊躇ためらうことがある。

 それだけの為に、俺はこの世界にやってきたはずだ。

 この場所で、力の無さを痛感した筈だ。



 目的を見失うな。

 ここまで来ておいて、マリスタのその場のノリで出たような言葉に惑わされるな。



〝ふふっ、ってことはやっぱり――あんたが頼れるのは、わたししかいなかったってことなのね?〟



 行け。

 手段を選ばず(・・・・・・)、こいつから目的の言葉を引っ張り出せ――――



「……ココウェル。この国はもうじきほろぶ」

「………………――――!!!?」


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