「勘所」
「ここでヘタにリシディアを守りゃあ、バジラノに……ひいてはアッカスに攻撃を仕掛けたのと同じ。リシディアと一緒に滅ぼされるのは間違いねえ。だがもしリシディアが滅んで、その時プレジアがアッカスに味方したとすれば……プレジア生き残りの可能性もあると……」
「そうだ。そして我々はアッカスに破壊されてきた他の学府と違い、一個の軍事力としても機能する。そこを売り込むことも出来よう。万が一それが破談となりアッカスとプレジアの戦争となっても――専守に徹すれば寡兵の我々でも希望はある」
「……どうしてそれを、我々に話してくださらなかったのですか? 学長」
静かな口調でアドリー。
オーウェンは目を細めてシャノリアを、そしてファレンガスを見た。
「言っても解らぬ馬鹿にかかずらっている暇など無いと思ったまでだ。事態は刻一刻と動いている。加え大局を理解できない者にはできない者なりの仕事もある。適材適所というだけのことだ――――ああ、まったく煩わしい。結局こうして無駄な時間を食ったではないか。兵士への聴取もまだ完全では無いというのに。話はこれで以上だ、次の招集があるまで通常業務を――」
「そこまで言ったなら最後まで話していったらいいでしょうよ。学長殿」
「黙っていろトルト・ザードチップ。もうお前の言葉など誰も必要としていない」
「必要なんぞ知ったことじゃないんでね」
『!!!』
強風に吹かれた草原のように、教師たちが一瞬で大きく騒めく。
職員室を去りかけたオーウェンの行く手に、トルトが立ちふさがったのだ。
「ざ――ザードチップ先生っ」
「失礼ですよそんなっ」
外野の言葉には耳も課さず、二人の痩躯が至近距離で目線を――威圧を交わす。
片眉をひそめながらトルトは口を開いた。
「んなこと言ってる場合じゃないんですよ先生方。こいつは今、一番大事な情報を隠したまま場を去ろうとしてんですよ。上からの言葉で上手いこと煙に巻いて。なぁ」
「誰に向かって話しているつもりだ。弁えろ教師風情が、」
「今更肩書気にして喋ると思ってんのか」
「弁えろ下郎ッッ!!!」
「王女の処遇を聞こうじゃねえかッッ!!!」
怒号。そして吹き荒れた魔波。
机さえ微動する圧に、室内は地震でも起きた風情になる。
オーウェンは刺し貫かんばかりにトルトを睨めつけるその目元を、小さく一度痙攣させた。
「……ただただ私の株を下げたいだけのようだな。下賤の屑めが」
「俺が下げてんじゃねえ、あんたが手前で下げてんのさ。いいから答えろ。もしあんたが言ったように、リシディアが滅んでプレジアがアッカスに取り入ろうとなったとき。今ここにいる王女をどう丁重に扱ってくれるつもりなんだ? 今となっては王家たった一人の跡継ぎをよ」
「…………当然であろうが」
オーウェンが目を見開く。
「ココウェル・ミファ・リシディア殿下には、生死を問わずプレジアの生存に貢献してもらう」




