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「優悦の長」

「人の話を聞けんのか？　アルクスとプレジアを守るためだと言ったはずだが」

「あんたこそディノバーツ先生の話聞いてたのかよ。『守るためにアルクスを出さない』って考え自体が甘いんじゃねえんですかって話になったでしょうよ」

「んでそれを聞いたあんたはまたも俺らを口汚く罵《ののし》った。じゃ何を考えてアルクスを出さないんだと改めて聞いてみりゃ『アルクスとプレ(さいしょ)ジアを守るため(にもどる)』たぁどういうことなんだよ」

「はぐらかさずに答えてください、学長！」

「……大局を見定められん馬鹿ばかりだ。このプレジアが内乱後に設立された意味さえ自覚せず、この二十年の反省も知恵も何一つ積み重ねられていない……このような無価値な学府《がくふ》、いっそここで滅びるべき(・・・・・・・・)なのかもしれんな」

「……で。ですから、学長は何を……」

「もう黙っていろ小娘(・・)。大貴族の身でありながら何の知見も持たずろくな賢察(・・・・・)も出来ぬ貴様を二度と教師だなどと思いたくない」

「……！」

「仕事してくださいや『学長』殿。自分の世界で悦《えつ》に浸《ひた》って下々(しもじも)置いていくのも大概《たいがい》にしていただけませんかね」

「……ここまで発破をかけても誰一人辿(たど)り着けんのか。私と同じ結論(・・・・・・)に」

「そんなものっ、言ってくれないと解《わか》るわけ――」

「見捨てるつもりなんですか？」

　シャノリアを声を遮《さえぎ》り響く低い声。

　振り返った先には金髪の長身痩躯《ちょうしんそうく》。

「エ……エルジオ先生？」

「ほう……サイファス・エルジオ。開口一番その言葉が飛び出してくるということは、君は――」

「プレジア『だけ』が生き残ることを考えれば、確かに最善手《さいぜんしゅ》かもしれませんね」

「――……いや。君達(・・)は同じ結論に至ったか？」

「え――」

　シャノリアが、視界の端《はし》でひらひら動く何かを捉《とら》える。

　パーチェ・リコリスが手を小さく上げ、ひらひらとゆっくり小刻《こきざ》みに動かしていたのだ。

「……どういうことですかパーチェ先生、エルジオ先生っ。私には――」

「待て…まてまてまて待ってくれッ！　リコリス先生っ、あんた今……今なんて言った？　『プレジアだけ(・・)が生き残る』だと？」

「――――！！！」

　――賢察(・・)が、職員室を貫く。

　パーチェはどこか冷めた目で次を告げた。

「お察しの通りですわ、ケネディ先生。どうやら新学長は、リシディアを亡《ほろ》ぼしてでも、このプレジアを守ろうとしておいでのようです」