「軍事国家バジラノ」
黒幕の存在を告げたシャノリアの言葉に、しかし表情を変える者は誰もいない。
シャノリア自身、それは想定の範囲内であった。
「……分かり切ったことじゃないですか。国境へのバジラノの侵攻、国軍がすっかり出払ったのを見計らったかのような王都でのクーデター…………王都の賊軍とバジラノが繋がっていないわけが無い」
「……それで? まだ思っているところがありそうだな、ん? 最後まで言ってみるがいいディノバーツ」
「……? はい……」
突然いやに殊勝な態度を見せ始めたオーウェンに怪訝な目を向けながら、シャノリアは続ける。
「そして、軍事国家バジラノは……かつてリシディアが大国、アッカス帝国との間に起こした独立戦争の折、緩衝国としてアッカスとリシディアの間に建てられた……傀儡国家です。バジラノが単独でリシディアに戦争を仕掛けてきたとは思えない……帝国が糸を引いていると考えるべきです」
「見事な考察だ」
「知らないわけではないですよね。アッカス帝国に侵略された国々がどんな扱いを受けたのか。文化人は皆殺しにされ、学校もすべて破壊された。侵略された国々の民は奴隷にも等しい扱いを受け――人を人とも思わぬ仕打ちを受けるのだと」
「恐ろしいことだな」
「そう思っていただけるのでしたら!――ここでリシディアが王族を失えば、この国が今後どうなっていくか解りませんか!? でも今アルクスを派遣すれば、国王陛下を助けることが出来れば流れは変わる! アルクスが出動しなければ、みすみす滅びを――」
「下らん」
「――――、え?」
「下らん、下らん……まったく下らんなディノバーツ。まぁ、当主でもない貴様に頭を求めたところで所詮はその程度ということか」
「な、何を――」
「学長。個人攻撃が過ぎます」
「貴様こそ口が過ぎるぞマーズホーン。そこの穀潰し共にも言ったがな。私は貴様らなぞ攻撃したくてしておるのではないわ。クリクター・オースをいただいた学び舎の教職員のレベルはこの程度であるかと、嘆かずにはおれんだけよ。どいつもこいつも不明極まりない。なまじ状況を正しく分析できているだけになお始末に負えん」
「ど……どういうことなのですか学長? あなたは一体何を――」
「同感ですね。この際はっきりさせてくださいや」
ひょい、とだらしなく手を挙げながら、トルトがゆっくり立ち上がる。
「あんた、一体何を考えてアルクスを出さないっつってんです。理由を細かく話してくださいよ」




