「底なしに沈む根」
「……ちょっと待ってくださいよ。そりゃあつまり、」
「『クリクター・オースはリシディア王国と繋がっている』。そもそもそれが奴にかかった容疑だろう?」
「辻褄が合わんでしょうがよっ」
ファレンガスが席を離れ、学長席へと近づく。
何人かの教師が立ち上がり手をあげ彼を制止しようとするも、ファレンガスは止まらない。
「確かにクリクターのおやっさんに都合のいい展開ですよ、この流れは。国が危機に陥ったことで、おやっさんの件はこうして話題にしなきゃ、有耶無耶になってってもおかしくない。おやっさんと繋がる誰かがその流れを作ってる、そう言いたくなるのも解らなくはない」
「そうだ。更にあの男は『無限の内乱』直前まで王国騎士を務め、国の中枢に入り込んでいた。何をどう疑われてもおかしくはない」
「ですが状況を考えてくださいよ! 今国は潰れかかってんですよ? まさかおやっさん一人の疑いを有耶無耶にするためだけに、国が滅亡を自演してるってんですか? おかしいでしょうよ!?」
「言ったはずだぞ。何をどう疑われてもおかしくないと」
「…………は?」
――ファレンガスの中で、考えたくない疑念が鎌首をもたげる。
シャノリアが目を瞬き、動揺を隠せない顔で口を開く。
「……学長が繋がっているのは、今リシディアを襲っている勢力だと言うんですか?」
『!!!?』
「――状況証拠でしかねえでしょうがッ!」
「疑われてもおかしくはないのだよ。なにせこの国は、一度陰謀によって滅びかけているのだから。二十年前にな」
「……陰謀」
「誰の」。
教職員の中で最も若年であるシャノリアでさえ、そうは問わない。
問う必要が無い。
二十年前。
公衆の面前で王女を殺し、国を大乱に陥れた勢力――――
「――そうだ。私はこの一連の事件に、魔女の国ツァルハの影を見ずにはいられない」
「話が飛躍し過ぎています、学長」
「はっ。陰謀論者がトップに座ると大変だな、こりゃぁ」
「ザードチップ先生も言葉を慎んでください、おかげで最も大切な話が一向に進んでいない。どれだけ遠回りをすれば気が済むのですか。話を前に進める気がないなら退席をお願いします――学長、あなたもです」
「…………まあ、この辺にしますかね。すんませんでしたね皆さん。私の話はそう……また、すべてが片付いた暁に」
「は。危機にある親友をかばわずにはおれんか。マーズホーン」
「二度言わずともご理解いただけると信じております。校長」
「……。いいだろう。その浮浪者が矛を収めるならこちらも『得物』を構える理由は無い」
糸目で表情の読めないアドリーを一瞥し、オーウェンは椅子に座り直した。




