「浮浪の教師」
「――どうしてですか? 確かにザードチップ先生の言う通り、リシディアからの……襲撃事件は、すべてが解決したのではないのですか?」
「敵はあの元学長が見せた実技試験の記録石を見てプレジアに侵入してきた」
「『だから呼び寄せたも同然だ』と、そう言いたいってワケですかい」
「その可能性は消えていない。つまり奴は未だ、今回の事件の片棒を担いだ疑いを晴らせていないということだ。それで終わりだ、これ以上その件に答えることは」
「はァん? じゃ何故フェイリー・レットラッシュとケイ・アマセは解放されたんです?」
「――黙れ末端、いい加減長いぞ。今貴様の下らん都合に付き合っている暇があると思うか」
「おォおォ逃げる逃げる。そんなに惜しいもんですかい、学長の椅子ってのは」
「そんなに惜しいものか? あの男から記憶喪失の男に与えられた『教師の中でも特別な立場』というものは」
トルトが肩眉を吊り上げ、眼光鋭くオーウェンを捉える。
「恩人のスネをかじって今までのうのうとここで暮らしてきたのは貴様の方ではないのか寄生虫めが。たまたま思い出しただけの戦闘技能で情けをかけられ、前学長のよく分からない温情にすがってここに居座るだけにとどまらずそれを指摘されても居直りまでするとは。腹を探られて痛いのは貴様の方ではないのか」
「――――……とんでもねえな。あんた」
「貴様がここで食み続けた穀のように潰されたくないのなら、まずは自分が私の情けでここに居られているのだということをよくよく理解しろ。それすら理解できん認知しか持たぬというのなら消えろ。そして以後我々と同じ教師などとは死んでも名乗るな浮浪者がッッ!!」
「アルテアス先生!」
「学長。それ以上は学長としての品位を問われます」
挟まれたアドリーの言葉に、オーウェンは殺意さえこもった目をようやくトルトから離した。
「救いようのない馬鹿とはいるものだな――そもそも目の前の問題を解決せねば前学長が戻ってくることも出来ぬと何故解らぬ」
「ど、どうしてですか?」
シャノリアの言葉に答えず、オーウェンはゆっくりと学長の席に座す。
両手で髪をかき上げながら顔を上げ――鷹揚に、どこか職員らを見下ろすように一望した後、自分の席で立つシャノリアを見た。
「聞くばかりでなく自分で考える脳は持たないのか? ディノバーツ」
「……呼び捨てはやめてください、アルテアス《・・・・・》学長。私は今教師としてここにいるのです」
「……単純なことだろうが。クリクター・オースは今回の事件で、黒幕であろうリシディアとのつながりを疑われている。それを問いただすには、王国にまともな回答をする余力を取り戻させるしかなかろうが」
「! まともな――」
「学生らがアルクスと共に交渉し、そして回答はいつまで経っても返ってこなかった。まるで回答を渋るかのように。そしてフタを開けてみれば有事のため回答できなかった、ときたものだ。――――都合が良すぎるとは思わんのか。貴様らは」
「都合が、って……」




