「確執」
「ええ教師です。プレジアのね。国のじゃあない」
「そんな詭弁を……!」
「まあそうですね、のらりくらりとさせてもらってるだけですわ……ま、それもこれも私の記憶がないからかもしれませんがね。どうも守ろうって気にならない。変な話、リシディアがなくなったって私ァ困りませんもんで。すぐに学び舎がなくなるって話にもならねぇですしね」
「その通りだろう。だが、国の危機に何の助力もしなかった……では、体面にも差し障りがある」
トルトの言葉を継ぎ、職員室に入ってくる人物。
黒ローブを羽織る、精悍な顔立ちをした髭の無い色白の男――――プレジア魔法魔術学校現学校長、オーウェン・アルテアスは、ゆっくりとトルトに目を合わせた。
トルトが目を細めた。
「『体面』、ですか。アンタの言いそうなことだ」
「ザードチップ先生ッ」
「まるで幼児のような物言いだな、担任も持たぬ一介の教師風情が」
「そういう強権的なやり方が気に入らねぇだけですよ。俺らはね」
「目上の者に食ってかかる、自分達が複数であることを誇示する……話にならんな。社会人としてまともな教育を受けていないと見える。どうしようもない馬鹿が」
『!』
職員室内の空気が変わる。
シャノリアの不安げな目が、鋭い眼光を交わしあうトルトとオーウェンを行き来する。
「大体、なんであんたが学長の椅子にケツを乗せ続けてんですか。リシディアからの刺客の件、もうカタはついたはずでしょうよ……ちゃんと生きてんでしょうね、ウチの学長は」
「ッ!? と、トルト先生、それって――!?」
「大袈裟な言葉で私に悪いイメージでも植え付けるつもりかね? つくづく下らんことしか考えん男だ。殺している筈が無かろうが。あの容疑者は今も監禁中だ」
「容疑者――」
「だから何の容疑なんです。どうもその辺がハッキリしませんよねぇあんた方は。流石は大貴族様ってところですかね」
「何が言いたい。この際だ、言ってしまってはどうかな? 残り少ない教師生活に悔いを残さぬように」
「!? が、学長それは――」
「オウオウオウ公衆の面前で脅しですかい?――――こりゃ参ったな。あんたに従う理由がどこにもない」
「……ハッキリ言っておこう。元プレジア学長、クリクター・オース。奴が学長職に戻ることは永遠にない」




