「その血と義勇にかけて」
ロハザーを上回る怒声に、周囲が揃って目を丸くする。
ナタリーはトレードマークのピンクニットを目深に被り直して目を伏せ、息を吐いた。
「………………すみません。少し外します」
たどたどしい足取りで医務室から離れていくナタリー。
「次から次へと」という奴の去り際の言葉が、きっと何人かにも聞こえたことだろう。
その通りだ。
どうしてこう、次から次へと。
まるで――
「関係してそうな、感じだよね。この間のお姫様事件と」
――システィーナの言葉に、皆が無言で同意する。
「……マジで、ヤバいよね。この国」
「王都の治安部隊は壊滅、戦力の大半は国境線に出てる、その上魔波妨害で転移は不可能――ああ、たぶん……マジでヤベえ」
チェニクの言葉にビージが応じ――居ても立ってもいられずといった風情に動き出す。
「お、おいどこ行くんだビージ」
「アルクスんとこさ。ここに来たら治療だの何だので俺達ゃ叩き出されんだろ。んなことになっちまったら――迅速に行動してくれと奴らに言っとく余裕もねぇ。ここでボーっとしてるより万倍マシだろ」
「迅速に……」
「そうだ。お姫様ん時みてーに足引っ張るような真似されてみろ、今度こそ国が吹っ飛んじまうぜ。そうさせないための念押しだ」
「……そうだな。よし、僕も行く。君も来ないか、チェニク」
「う、うん! 行くよ――」
「それよっ!!!!!!」
『ッ!!!?』
突然大声と共に立ち上がったマリスタに、またも目を丸くする全員。
マリスタはそのまま隣にいるリリスティアの両肩を掴み、ぐわぐわと揺さぶってみせた。
「わ、ぅ、わぅわぅわっ」
「そうすればいいんだよ!!」
「やめねーかテメこらマリスタっ!! リリスちゃんになにしてんだッ」
「行こうロハザー! アルクスに『私達もつれてってくれ』って頼み込むのよ!!」
『な――』
「――何言ってんのよマリスタあんたっ!」
既にベッドから這い出ようとしていたマリスタの両肩を押さえ、彼女を押し止めるエリダ。
「な。なによぅ」
「何ってあんた……自分が今何言ったか分かってんの!?」
「分かってるよ!……学生だからとか、関係ない。私は国が滅びそうなのを黙ってみてるなんて絶対ヤダッ!!」
「マジモンの戦争なんだよッ!! 大人でもないのに関わったって死ぬだけ――」
「私は大貴族なんだよ。エリダ」
「――――、」
肩に置かれた手を握り。
真摯な、しかし強い青色の眼差しで、マリスタがエリダを見る。
「無謀なことかもしれない。無駄死にするかもしれない。でも動かなくちゃいけないの、私は」
「――嘘こきなさいよ。あんたが使命感だけで動いてるワケないでしょうがっ」
「ごめん、バレたか、でも本気でそうも思ってるよ。私のウチはリシディアの建国にも関わった大貴族、この戦いに参戦する義務があるって。でも何より私は……皆を守るため、こんなときのために力をつけてたんだ、義勇兵コースに入ってたんだとも思ってる。その力を使うのは――きっと今だと思うのよ、エリダッ」
「…………!!」
「行こうロハザー。アルクスに、私達もつれてってくれるようお願いしてみよう」
「……うし!!!」




