「秘めし隠れし、真意」
どうやら、俺は…………想像以上に厄介な問題へと首を突っ込んでしまったらしい。
「『大は小を兼ねる。強いものが弱いものを支配する。その当たり前に、感情だけで歯向かうことは許されない』――――まさしく今のお前らのことじゃねぇか、『平民』共。いっぱしに被害者意識ばっか振り撒きやがって、――あんたの責任でもあるんだぜ、アルテアス!」
「な――――なんですって?」
首だけをロハザーに向けるマリスタ。ロハザーは冷たく激しい目でそれを見下ろす。
「あんたも今、感情論だけでそこの異端や『平民』に味方してる。あんたは本来そんな器じゃねぇんだよ――――四大貴族の一人なんだぞ、あんた。人の前に立つべきあんたがヘラヘラフラフラしてっから、その気安さにつけあがった『平民』共が勘違いすんだよ」
「わ――――私はッ……!」
「暴力に打って出るのは校規違反だ。風紀委員の名の下にあんたを拘束する、マリスタ・アルテアス――ヴィエルナ、頼んだ」
「わかった」
「テメーも今回までは厳重注意で済ませてやる、ケイ・アマセ。これに懲りたなら、もっとカシコく生きるこった」
「ケ、ケイっ」
有無を言わせない圧を持つロハザーの言葉。
何か言葉が欲しそうなマリスタの呼名。
〝ありがとう、お兄ちゃん〟
「マリスタ。……」
――――俺に、これ以上関係するな。
「……火に油を注ぐな。鬱陶しい」
「――――――ぇ」
「すまなかったな、風紀委員。これからは、もっと気を付けて生きよう。貴族でも『平民』でもないこの身の程は、十分思い知った」
マリスタの顔から感情が落ちるのを目端に捉えながら、改めて本を集める。
俺の返答が予想外だったのか、ロハザーは面食らった様子で目を瞬かせた。
「お――おう。分かればいいんだよ、分かれば」
「……………………いこう。アルテアスさん」
視線を感じて、振り返る。
そこにいたのは、能面のように無表情な黒髪のグレーローブ、ヴィエルナ。
「………………………………、」
俺から視線を外したヴィエルナに連れられ、マリスタが廊下を去っていく。後を追うシスティーナ。
俺はローブの汚れを払い、心配そうにこちらを見つめるパールゥに、本に対する謝罪の意を込めて小さく頭を下げ、足早にその場を立ち去る。
「かばわないのね。君を助けるために現れた女騎士さんを」
――生徒に呼ばれて来ていたのか。
丁寧に丁寧にネコを被った魔女の言葉に、振り返らず立ち止まる。
まったく嫌味な女だ。
だが……マリスタをかばわなかった俺を軽蔑うなら、好きにすればいい。
「あいつは勝手に動いただけだ。俺も勝手にするだけさ」
魔女を一切見ず、再び足を前へ。
この騒動がなければ、もう三十分は魔術の練習が出来たろうに。
ああ、勿体ない、勿体ない。
魔女は、怪訝な顔で少年の後ろ姿を見送る。
「……言ったろう。お前の心は精神を通して伝わると。……それだけあの子に無関心でいながら、お前――どうして自分の言葉に、そうまで怒っているんだ?」




