「混乱」
『!!!!?』
――今度こそ空気が凍りつく。
否。それは凍り付くなどというものではなかったかもしれない。
なぜなら――
「…………王都が…………」
――死。
リシディアの滅亡という全ての終わりが、唐突に彼らの全身にのしかかったのだから。
「国王が、敵だらけの中で丸裸…………!!!!」
「――――総員急げッ!! この戦いは――国の存亡がかかった大事だッッ!!!」
誰かのつぶやいた絶望をかき消すように放たれたガイツの怒号が、かなめの御声を通して校内のアルクス全員へ伝えられる。
事態は急速に、そしてゆっくりと絶望へと動き始めていた。
◆ ◆
『――――引き続き、情報が入り次第お伝えします……』
――記録石を通し、王都報道員が絶望を語り終える。
にわかに呼吸を乱したロハザーが視線をさまよわせ、まっすぐに転移魔法陣へと向かう。
「ロハザー。どこ行くの」
「決まってんだろ王都だ!!」
「ばっ……死にに行くつもりなの!?」
「うるせぇマリスタッ!!! 都に家族がいんだよこっちは!! 見習いの俺達に出撃命令が下るはずもねぇ、アルクスのおカタさは俺達が|一番間近で見てきただろうがッ! 待ってられるかンな命――」
「無駄だと思いますよ」
「……あ?」
冷徹にそう言い放ったナタリーに、誰にも制止する間を与えずロハザーが掴みかかった。
「何が言いてェんだテメェコラ……俺の家族はもう死んだとでも言いてェのかッッ!!?」
「ロハザー落ち着いて。ロハザー」
「王都でお役人をしている家族がいるキースさんとは違って、頭が悪いのですねぇ。ハイエイトさんは」
「あァ!!?」
「ちょっとロハザー、いいからその手を離……」
「徒歩二日ですよ、ここから王都まで。休まず歩いたとしても。どうやって行くつもりですか」
「フザけたこと抜かしてんじゃ――――……徒歩。徒歩だと?」
ナタリーの言葉に更なる絶望を見出したロハザーが、顔に浮かんだ怒りを苦渋に変えながら脱力していく。
大きな溜息がナタリーの口から漏れた。
「ようやく気付きました? そうです、恐らく徒歩しか使えませんよって話です。国中から次から次へと増援を呼べる転移という手段を、敵が封じてない訳ないじゃありませんか」
「じゃ……魔波妨害が働いてるってことか」
「ご名答ですバディルオンさん」
「で、でも待ってくれよコーミレイ。だったら、国軍の兵士はどうやってここに……」
「さあ。魔波妨害に引っかからない魔石か何かお持ちだったのでは。稀少魔石を貯め込んでるらしいことが先日分かったばかりではないですか」
「ッ……だが、転移を試してみる価値はまだ、」
「敵に伝わる可能性を考慮してます? 増援が来るとわかれば、敵はどんな手を使ってくるか――」
「じゃあどうしろってんだよッ!!」
「解れば苦労しませんよそんなものッ!!!」
「っ……!!」




