「急転」
「アマセ君、アルテアスさん」
『!』
◆ ◆
明らかに余裕のない張り詰めた声に、俺もマリスタも間を置かず声の主へと目を遣る。
部屋の明かりと共に姿を見せたのは魔女リセル――いや、今はパーチェ・リコリスの方か。
「ごめんね、ここ空けてもらわないといけなくなった。遠慮してくれる?」
「な、ぁ……パーチェ先生、何が、」
「血まみれの兵士がプレジアに来てる。大ケガらしいからスペースが必要になった」
「血まみれ――兵士だと?」
「事情はよく分からない。ともかくここを整備したいの。悪いけど向こうに行っててね」
「……分かった。行こう、マリスタ」
「…………うん、わかった」
どこか不服そうなマリスタを追い抜き、先に皆のいる医務室へと戻る。
この短い間に駆け付けたらしい医療班が既に動き回っており、見舞いにきていた連中が揃って出ていく所だった。
「アマセ」
「ロハザー。何事だ一体、また襲撃か?」
「アルクスが動いてるみてーだ、詳しいことは俺も知らされてねぇ。だが……」
「エントランス。大ケガした兵士がいるみたい」
「王都の人間ってことか」
「まだ解んねーよ。野次馬しにいくんじゃねーぞ、その体で。おめーは大人しく――」
「わざわざ見に行く必要もないようですよ」
『?』
声に振り向く。
ナタリーが手にしているのは、音声出力型の記録石。
耳に入る情報に、俺も皆も言葉を失うことになる。
◆ ◆
プレジア魔法魔術学校第一層、エントランス。
敷き詰められた大小さまざまな転移魔法陣により、第二層ほか全ての階層へと通じる玄関口。
映像出力型の記録石が備えられた大きな校内案内板のある中央広間に、その血の跡は続いていた。
「ひとまず止血は完了しました」
「水持ってきました!」
「ありがとう。――水だ。飲めるか?」
床に片膝をついた歴史教師、ファレンガス・ケネディがコップに注がれた水を差しだす。
差し出された男は、震える手でそれを受け取り――――いまだ血の跡が引く口元に引き寄せ、口の端からこぼしながら飲み干した。
飲み終えると同時にひどくせき込み、コップを取り落とす。
「! 大丈夫か、おいっ」
「妙な魔術反応は?」
「今の所、見られないよ。自爆等の心配はないと思う」
アルクスのゼイン・パーカーが、その両目に赤と青が混じった独特の光をまとわせ、兵士の中で何か魔術起動の兆候が見られないかと目を凝らす。
その横で、ガイツも油断なく血まみれの兵士を眺めていた。
気付けのつもりか、ファレンガスは兵士の背中を叩きながら大きめの声をかけ続ける。
「しっかりしねえか、オイッ! 一体どっから来た、何があった!? それを伝える為に来たんだろう!」
「…………王都が…………」
「! 王都――王都がどうした、おい!」
血で汚れた兵士の肩を揺さぶるファレンガス。
兵士はゆっくりと片手を伸ばしてファレンガスの腕を握り、力の限り――力の限り揺さぶった。
「王都が――――王都が攻撃を受けていますッッ!!!!!」




