「ケイ・アマセ、その謎の少年」
テインツが、圭の消えていった医務室奥の扉を見ながら言う。
「アマセって……ホントにただの外国からの留学生なんだろうか」
「!!」
「……」
「…………」
「はは……『ただの留学生』ねぇ。とてもじゃねーけどそうは思えないよな」
テインツの問いに笑うロハザー。
マリスタ、ナタリー、ヴィエルナの三人の様子が若干変わったことには、幸か不幸か皆気付かない。
システィーナが小首を傾げた。
「うーん。そういえば、彼って出自も何も伏せられたままなのよね。自己紹介の時そう聞いたわ」
「パールゥは何か新しいじょーほー聞いたりしてないのかー? アマセから!」
「……私なんかより、彼の保護者役だった人の方が詳しいんじゃないかな。その辺は」
パフィラに話を振られたパールゥがジロリ、とマリスタを見る。
マリスタはあからさまにギョッとして目を逸らす。
ヴィエルナの目が呆れに乾くのをナタリーは見た。
「……妄想だと、笑い飛ばして欲しいんだけど。僕、少し思うんだ。もしかしたら……あいつが舞台で会長に言ったアドリブは、全部本当のことだったんじゃないかって」
「!!!」
「マリスタ。顔色が優れませんがどうしたんですか。トイレなら我慢しなくていいですよ」
「ちちち、違わい!」
「リンゴ食べて」
「むも゜っ!?!? のむのむ……」
「……ンだよマリスタ。あんたなんか知ってんのか? やっぱ」
「トイレだと、思う。股もじもじ、してるもん」
「してませんけど?!?!」
ナタリーとヴィエルナの即興連携が功を奏し、怪訝な目でそう言うロハザーにマリスタは答えられない。
そうこうしている内にシータが口を開いた。
「舞台で言ったことって……何だっけ? もう忘れたのだわ」
「アレだよ。復讐がどうとか、魔女がどうとか言ってたやつ」
「考え過ぎじゃねーのか? 俺には台本の設定にそったアドリブにしか聞こえなかったぜ?」
「うん、それが普通だと思うよ、ロハザー……でも、何て言ったらいいか、その……僕には、アレが演技に見えなくってね。最前列で見てたからかもしれないけど」
「僕も演技には見えなかったなぁ。手の火傷――イグニトリオさんの魔装剣の刃を握ったりしてたせいかな。鬼気迫るものがあったよね」
テインツの言葉に、チェニクが眼鏡の向こうで両目を上向かせて同意する。
マリスタはようやくリンゴを飲み込み、どう言い繕ったものかと考えを巡らせた。
〝あの日、神が俺に手を差し伸べるまでは――――魔女が俺と共に立つまでは!〟
あのセリフを聞いたとき、舞台袖で戦慄したのを彼女は未だに覚えている。
一言一句違わず覚えている台詞など、自分のもの以外ではその言葉しかない。
マリスタは圭の目的――復讐のため、敵と見定める誰かを殺すため、どこでもない別の世界からこの世界へやってきたことを知っている。
だが圭が、一体どうやってこの世界へやってきたのかは知らないのだ。
疑問に思うことはあった。しかし考えないようにしていた。
マリスタにとっては、彼がどうやってここに来たのかよりも――今ここに彼が存在することの方が、ずっと大事なことであったから。
それが、ほんの一週間前。
ずっと秘めていた疑問の答えが、突然目の前に晒されたような感覚。
(――ヒントはあったのよね。思い返してみれば)




