「非参戦理由」
「『え』じゃないでしょ。逆に訊くわ、あなた達に何ができるの? まさか、戦いに参戦でもするつもり?」
「――――、」
「戦いを身近に感じるのは結構だけどね。あなた達は戦場から遠く、そして何よりまだ子どもよ。参戦する理由も義務も微塵も無い。ただ大人しく戦況を見ていればいいの」
「そんなのっ……」
「正しいわ、マリスタ」
「し――システィ?」
システィーナが静かな瞳でマリスタを見る。
「特にあなたは学祭で、私達とは違って命を張った現場にいたから、勘違いしちゃうのも無理ないと思うけど……私達、まだ子どもよ。何も出来ないし、しちゃいけないと思うの」
「し――しちゃいけないってのは違うんじゃない? 別に私は、」
「思い上がってる、って言いたい訳じゃないのよ。ただ今は、大人に任せて欲しいの。リコリス先生だってその思いで、あなたに過度に戦争を身近に感じ過ぎないように言ってるんだと思うわ。この国の次代を担う子どもたちに、今命を落として欲しくないのよ。解る? マリスタ」
「…………」
マリスタが言葉に詰まり、同時に怪訝な顔でシスティーナをまじまじと見つめる。
次いで口を開いたのはシータ、そしてナタリーだった。
「……ま、そういうことだわね。私達は大人しく隠れ潜んでいればいいのだわ、マリスタ」
「今はまだ雌伏の時ってことです、マリスタ。貴女が役立つべき場所はこの先きっとあるってことです。お父様の言葉をお忘れですか?」
「………………」
二人の声に、マリスタが不満そうな顔でベッドに背を着ける。
それが正しいだろう。というか、遥か遠方でお前一人が決起したところで、正確な戦場の位置もそこに駆け付ける術も無い、病み上がりの義勇兵見習いに何が出来るわけでもないだろうに……というのは、またナタリーの多弁を招きそうなので口にしない。
だがまあ……個人的には、万が一ここに戦火が及んだ際のことをリセルと話しておく必要はあるかもしれんな。
大体、俺にとってこの国は一時の止まり木でしかない。
魔女の奴が話してくれないおかげで、またプレジアという学び舎の価値からここに留まっているが――事に依ると、俺の復讐の相手はリシディアという国にいない可能性だって十分あるのだから。
一先ず静観。万が一に備えた、リシディア脱出の手段。
戦争の勃発により俺が考えないといけないことなど、それだけだ。
「……少し疲れた。眠りたいんだが、パーチェ。移れる部屋はあるか」
「え? 別に無いこともないけど……どうして?」
「こんなに騒がしいと眠れない。かといってこいつらを追い出すのも何だろ。ここは俺一人の場所じゃないからな。移動できるならするよ」
「勝手すぎんだろアマセオメー……ここで寝てろよ大人しく」
「お前達がここで騒ぐのと同じように、俺にもここで療養に専念する権利があるんだよビージ。パーチェ、どうなんだ」
「……はいはい。じゃ最初に寝てた向こうの部屋を使いなさい」
「ありがとう」
背に刺さる目線を無視し。
雑音の無い環境を求め、俺は医務室を後にした。
◆ ◆
「……そうだよな。あいつにとっちゃ、ほんの半年くらいいるだけの外国だもんな、リシディアなんてよ。そういえば」




