「凶報、」
「…………」
王女ココウェルはアヤメと比べ、比較的自由な形で幽閉されている。部屋内には椅子や机が置かれ、いくつかの書籍やベッドまでも運び込まれている。
しかしそれも、アヤメと同じ厳重な拘束の下で身体検査を施され、結果彼女の全身から何の魔術的仕掛けや痕跡が見当たらず、かつ抵抗や反逆の意志が見られないから。
王女の身の上など経験したことも無いリアでさえ、聞くだけで不快に顔をしかめてしまいそうな検査。
そんな拷問で全身を嬲ったプレジアに、心を閉ざしてしまいたくなるのも当然ではないか――そんな悔恨も、リアがギリートと違い、見限ることなくココウェルに話しかけ続けている理由の一つであった。
そして、その心がまた一つリアの背中を押す。
「……殿下。アマセ君に会いたいですか?」
「!」
――俯いていた王女の身体が一瞬、ピクリと持ち上がる。
しかし本当に一瞬のことだ。
そののち、ココウェルはより一層体を椅子に沈みこませてしまった。
「殿下はこうなる前、ケイ・アマセ君と比較的親しく交流されていた、と聞いています。彼の傷もそろそろ癒え、退院の目途も立ち始めた所です。ここに来ることくらいはできると思いますが「やめて。もうやめて」
ガイツ、そしてペトラが目を見張り、王女を閉じ込める扉へと目を向ける。
検査初期以降、久しく聞かない――否、これがほぼ初であると言ってもよい、彼らに向けて放たれた王女の肉声だった。
「……殿下」
「もう聞きたくない。あんな裏切者の名前なんて」
「裏切り――?」
「あいつも結局、プレジアを守るためにわたしを弄んでたんじゃない。アヤメと何も変わらない……わたしを騙して、バカにして……馬鹿にして……」
王女の肩に力が籠るのを、リアは見逃さない。
しかし予想に反し、燃え上がったかに見えた少女の中の火の手はみるみる勢いを失い――王女はまた、体を力無く椅子へと沈めた。
「……みんなそう。結局誰も、わたしを………………もう話しかけないで。勝手にしろ」
「…………失礼します。また――」
「ガイツ、ペトラ!!」
沈んだ空気を破るドアの音。
駆けこんできたのは小さく息を荒げた、額に武骨なゴーグルを付けた男――アルクスの一員、フェイリー・レットラッシュ。
「何事だ」
「……ここじゃまずい。皆一旦外に来てくれ。あんたもだ、生徒会長」
「――?」
フェイリーに怪訝な顔を返しながら、ペトラの後に続いて詰所を出るリア。
扉が閉まったのを確認し、ペトラが碧眼を光らせてフェイリーに詰め寄る。
「返ってきたんだな、王国から返事が。内容は――」
「戦争だ」
「――――せん、」
「!? レットラッシュさん、」
「詳しく話せフェイリー」
「こいつを見てくれ」
苦い顔のまま、フェイリーが懐から記録石を取り出す。
魔石が集った者達の眼前に映像を出力させる。
「――王国が返事を返さないワケだ。やつら、マトモに返事ができる状況じゃなかったんだ……!」




