「私の世界は誰かの異世界」
「今回だってケイは被害者なんだよ!? そもそもそっちから突っかかって来たんだから悪いのは完全にその二人じゃん! 何言ってんの!? ハァ!?」
「だからんなこた分かってんだよ、アルテアス――――あんたもさすがレッドローブだよな」
トントン、と、ロハザーが人差し指で蟀谷を叩きながらマリスタに告げる。暗に罵倒されていると気付いたらしいマリスタが目を見開いて顔を険しくした。
「――私のことは今関係ないでしょッ!!」
「だったら理解しろよメンドくせぇなあんた。……俺は現実の話をしてるわけ。実際問題、このリシディアって国で貴族の影響力は無くなってねぇ。それを無視してコトを平等に語ろうとするのが無理過ぎるんだよ」
「何言ってんの……? あなた、自分が言ってること分かってる? 横暴に泣き寝入りしろっていうの!?」
「だから違げぇって。そりゃ横暴はもう許されねぇ。こいつらにも、あのテインツにも表立って騒いだ責任は取ってもらう。だが、貴族は未だ実際に『平民』を支えてる。当然、『平民』にはそんな我々に対する適切な姿勢があんだろって話だ」
「貴族の義務なんてもう……」
「ま、アンタは知らねぇかもしれねぇけどな。――大した危機感もないままレッドローブを着続けていらっしゃる世間知らずの大貴族令嬢サマはよ」
ロハザーの目に、僅かだが怒りが灯った――気がした。
「な――」
「気楽なもんだぜ。道楽で魔法学校に通ってるアンタみたいな奴は」
「なンですってあんた――――もういっぺん言ってみなさいよッ!!!」
「ま――マリスタ駄目よ!」
俺の横からシスティーナの声が飛ぶ。ロハザーに飛びかかろうとしたマリスタだったが――――奴の隣にいた黒髪の少女――ヴィエルナに即座に体を絡めとられ、赤毛は床に倒された。
「ぅいたっ!?! ちょっと、離して――――いたたたたたたっ!?」
「落ち着いて、アルテアスさん」
「加減しろよ、ヴィエルナ。ただでさえ力が強くてキツいんだからよ」
「ロハザーの言う通りだ!! スッ込んでなお嬢サマ!!!」
「黙ってろビージ。お前は頭に血が上るといつもそうだろ、少しは反省しろ」
「だがよっ!」
「ナイセストにはちゃんと報告するからな。チェニクと一緒に、この後会議室だ。いいな」
「ッ……!!!」
グッ、とビージが黙り込む。ロハザーが俺を一瞥し、未だ敵意の強い視線を向ける生徒集団へと目を向けた。
「改めて忠告しとくぞ、『平民』。お前たちがどんだけ貴族制度はなくなったとほざいてもな、実際問題俺達はお前らを支えてんだよ。この学校は誰の寄付金で成り立ってんだ? 通訳魔術に始まる社会を変えた大発明は、誰の力と金で成された? 『無限の内乱』でリシディアが魔女共に勝てたのは誰のおかげだ? 国づくりの中心になったのは誰だってんだよ?」
声にならない抑圧と抵抗が場を満たす。
『平民』と貴族の視線があちこちで激突し、見えない火花を散らして空気を殺していく。
「教えてやろう……四大貴族、ナイセスト・ティアルバーが俺達に話した言葉だ」




