「取捨選択」
「……ケイ?」
「……騎士と言えば、ギリート。そっちの件はどうなってる?」
マリスタの言葉を努めて自然に無視し、ギリートに話を振る。
ギリートは大きな息を吐いて明後日の方向へ目玉を動かした。
「……相変わらず。何も喋らず、何も動かず。『襲撃者』達もあの二人も……王国側も。今のところはね」
「…………」
場の幾人かが眉を顰める。
この場の全員に関係する、もう忘れられそうもないほんの一週間前の死闘。
首謀者とその一派、そして人質は、現在もプレジアの一室に幽閉されている。
騎士アヤメ・アリスティナ。
彼女を頂く黒の騎士達。
そして――結局状況に振り回されているだけだった、哀れなリシディアのお姫様。
アヤメを地に伏させたあの日以来、俺は彼女に――ココウェル・ミファ・リシディアに会っていない。姿を見てもいない。
お互いに、会ったところで最早冷静な話し合いを望めない……そう考えたプレジア・アルクス双方から出た結論だ。
〝ふふっ、ってことはやっぱり――あんたが頼れるのは、わたししかいなかったってことなのね?〟
――考えるな。
これ以上踏み入るな。
俺はケイ・アマセとして、今成すべきを為しただけだ。
〝お前の復讐はもう果たされたのか?〟
自分のこと以外考える余裕など最初から無い。
他人に心を砕く暇があったら、少しでもあの黒騎士に近付ける努力をするべきだ。
俺は自分の弱さを痛感した。
強くなったとはいっても、それは命を保障された「学生」という縛りの中の話だ。
アヤメやトルト、ギリート――俺が出会った「本物」らとの間には、恐らく俺が思う以上に圧倒的な差がある。
その壁をどうすれば乗り越えられるか。
この先どうすれば、俺は奴ら「本物」に迫り――そして乗り越える力を手にすることが出来るか。
〝いやぁ゛あ゛あ゛あ゛ああっっっ!!!! あぁぁあああっっっ!!!?!?!〟
――それを最優先に考えて、これからの動きを決めていくべきだ。
そしてもう一つ――俺が片付けなければならないこと。
〝俺を仲間と認めたなら、知っていることを全て話せ。何もかも、全てだ〟
〝いいよ。君が仲間と認められたらね〟
今回の事件のせいで後回しになってしまった、ギリートの謎。
〝マリスタ達を頼む。俺が眼鏡に適っていたなら〟
〝参るよねぇ。ホレれた弱みって奴はさ〟
よく解らんが、どうやら俺はギリートの信頼を勝ち取れたらしい。
改めて、こいつを部屋で問い詰める必要がある。幸い、退院できる日はそう遠くない。
長い長い紆余曲折。
ようやく、俺はケイ・アマセでなく、天瀬圭としての活動を再開できる。




