「王国騎士と王宮魔術師」
「授業でも習ったろうがよ……今のプレジアでは、兵士ってのは騎士よりも数段格下の扱いなんだ。兵士は極端に言えば、五体満足の健康体なら大体登用される。リシディア王国軍の入軍テストでも、大半は魔法で強化されない純粋な身体能力を測られるだけみたいだ。所有属性くらいは調べられるみたいだがな」
「あっ、分かった。じゃあ騎士は、身体能力が高くて魔法も人並みに使える人のことだ」
「違げーよ」
「え??」
「人並みに使える、って程度じゃ話にはなんねぇ。いいとこ兵士で構成される小隊長だな、それじゃ」
「へ、兵士の……上司?」
「そう、それでも騎士よりは階級は下だ。騎士になるためには兵士より高い身体能力と――固有の『魔術』を持っていることが絶対条件なんだ」
「ま――魔術を!?」
「それも条件の内の一つでしかないけどな」
「『騎士一人、兵士四十人分』。そう言われる」
「おうキース。確かあんた、上二人の兄貴が王国に仕えてるんだったな」
「え!? ヴィエルナちゃん、そうなの!? すご!」
ビージの言葉に目を丸くするマリスタ。
ヴィエルナがコクリとうなずいた。
「うん。一人は騎士、してるから。もう一人は王宮魔術師」
「ひぇー……王宮魔術師」
「王宮魔術師……王家お抱えの魔術師か」
俺の言葉にロハザーが頷く。
「ああ。兵士のキャリアとしての一つと言われてる。兵士として十分すぎる実力を持った奴は、いつでも騎士や王宮魔術師になるための試験が受けられるんだ。そして騎士と同様王宮魔術師にも、兵士を飛び越えていきなり王宮魔術師になれる道も用意されてる。道が整えられたのは戦後だって聞いたけどな――だが実質、騎士の方が王宮魔術師より上の扱いらしいけどな」
「え、なんでよ?」
「王宮魔術師には上のポスト――つまり『王宮魔術師長』の枠は一つしか用意されてねーが、騎士は違う。『ヘヴンゼル騎士団』には、第一~第七までの七つの『騎士長』ポストが用意されてるんだ」
「し、七人もいるの? 騎士長が」
「ああ。騎士に登用されると、騎士団内の七つの団の中の一つに配属される。騎士長達はその団を統括して……リシディアの軍事について、王族を交えて直接意見することができるようになるんだ。国の一部を動かせるようになると言っても過言じゃねぇ」
「おおー……」
……恐らくスケールの大きさを想像できていないマリスタの感嘆の声。
だがマリスタ、覚えているか?
〝アンタたちプレジアの連中なんて、束になったって敵いやしないわ。アヤメはそのヘヴンゼル騎士団中でも――――次の騎士長候補とまで言われてるんだからね!〟
リシディア第二王女――ココウェル・ミファ・リシディアが、俺達に言い放ったあの言葉を。
ギリートとトルトを、ココウェルを小脇に抱えて同時に相手取り逃げおおせ。
全力のマリスタ諸共、先の作戦本部を壊滅せしめ。
消耗が激しく片腕が潰され、満足に戦えもしない状況で、俺とパールゥとココウェルを完膚無きまでに叩きのめした――――
「……………………騎士になる、か」
――そんな奴が。
それ以上の奴等が、ゴロゴロ存在している場所――――




