「ふたつめのなみだ」
再び、服が温かい液体に濡れるのが分かった。
「せめて涙が枯れるまでくらい、こうしていさせて。君に比べたら、ベッドはすごく冷たいんだよ」
「………………」
……応えず、されるがままでいる。
「涙が枯れるまで、こうしていさせろ」。
そんな言葉に許可や不許可を出す資格を、俺は持たないから。
――パールゥのすすり泣く声が、俺を微睡みに誘う。
屑と呼ばれようが構わない。
元々パールゥに起こされただけだ。度重なる戦闘、呪いの侵蝕、考えを巡らせ沸騰した頭。心身は摩耗しつくされている。
休息が必要だ。
せめて、次の火の粉が俺の前に現れるまで――……
◆ ◆
微かな声の会話が消え、静寂に包まれる医務室。
マリスタ・アルテアスは。
マリスタ・アルテアスは心臓の早鐘を、乱れに乱れた呼吸を。
ベッドに丸めた背で。
耳を塞ぐ両手で。
腹部に籠った力で密かに、密かに覆い隠す。
背中から聞こえるすすり泣きに、呼応するように。
隠すことのできない、流れる理由も解らない涙がひとつ、ふたつとベッドを濡らした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これにて『こんなにも行きたかった異世界』の第2章終了、
並びにいったんの「連載休止」とさせていただきます。
2ヶ月後の物語の再開に、またお付き合いいただけると幸いです。
くわしくは活動報告にて。




