「高まる。」
「――――!」
口が、きっと何かにぶつかって、今こうして止まってるのだろう。
感触など、そんなもの、とっくに忘れてしまった。
真っ暗になった視界。
真っ白になった頭。
ただ口付け、堪え切れなくなったのかパールゥがぎこちなく鼻で呼吸を開始して。
俺はようやく、このまま止まっていていいのだろうかと疑問に思い始めた。
のも、束の間だった。
「――――ん」
「っ……」
――パールゥの唇が動く。
音も無く開かれた唇。
パールゥはゆっくりと顔を傾け、唇の重なる角度を微妙に変えたのだ。
口に感じたことの無い感触が蘇り、途端心臓が高鳴り始めた。
パールゥの両手を握る手に不自然に力が籠もりそうになるのを必死で抑え、針の穴に糸を通す如く慎重に冷静に、パールゥが不快に感じない程度の強さで、鼻での呼吸を再開する。
――魔女との口付けでは、こうはならなかったというのに。
少し時間が長いだけでこのザマか、天瀬圭よ。
現金過ぎる己の身体が、自分で嫌になった。
……けれど、どうすればいいかは。
自分に何ができるのかは、物理的に理解した。
「っ」
声にならない声が、重なる口から漏れ聞こえる。
右手でパールゥの後頭部を支え、唇へと押し付けるように小さく力を込めた。
唇がより深く重なる。
「んっ……ふ、ぅん……っ」
――余裕のない声。
え、もしかして……マズかったか?
「っ……」
「っはっ、ぁ……あ……」
離れるのは早かった。
あっという間に右手と距離を離した俺に面食らったのか、どこか名残惜しささえ感じる声を漏らすパールゥ。
「……っ、……」
「はぁ――はぁ――」
暫く、二人で呼吸だけを繰り返す。
不思議とそれを、いい機会だとは思わなかった。
「これで借りは返せたな」とか、「ここまでだ」とか、そういう言葉が出てきて終わり。それで十分なタイミングの筈なのに。
「……ケイ君っ……」
或いは、その時既に――
「…………もっと」
――俺は、熱に浮かされていたのかもしれない。
求められるがまま、再び唇を重ねる。
口を開いたまま、互いに一番深い所で口付ける。
左手はいつの間にかパールゥの右手に指を重ねるように繋がれ、彼女の左手は俺の腕を掴んでいた。
俺の顔を桃色の髪が擽る。
パールゥは何度も小さく口を開き、俺の唇を唇で撫で擦る。
まるで唇を食べられているかのような、奇妙な優しい感覚が俺を襲った。
体勢がきついのに気付く。
そこでやっと、パールゥが随分俺へと体を寄せてきているのが分かった。
「っ……はぁっ、パール――」
「ふうっ……!」
――離した口を一瞬で塞がれる。
アグレッシブな動きに呼吸が乱れる。体勢は更に崩される。
ダメだ、いったん引き剥がさないと――
自由な右手でパールゥの肩を押す。
口が離れ、尚も顔を寄せてきたパールゥの額に額を合わせ遮る。
鼻先が触れ、湿った呼気と呼気がぶつかった。
「は、はっ……パールゥ少し、」
「ケイくん……ケイくんっ、」
「むっ……ん――!?」
――――無理矢理押し付けられた口の、中で。
凶悪な程の湿り気と質量を持つ塊が、俺の舌先を掠めた。
「っぷぁ、あ……足りない、足りないよ……ケイくん……!」
――――妖しく光る紫の目が、俺をベッドに押し倒す。




