表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
908/1260

「キスまでの距離」



 ……少しだけ、嘘をいた。

 口付け自体は初めてじゃない。

ただ、



〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟



 ……あれを初めてにカウントしたものか、答えが出ないだけだ。



 いや。しかし、こう。

 口付けの何たるかなど、俺は全く心得が無い。



 口付けとは何なんだ。

 口が付いたら始まりで、口が離れたら終わりなのか?

 それ以外に何かあるんだろうか。

 気持ちを全部と言われたが、どうそれを表現すればいい?

 時間か? 時間が長ければいいのか。

 長いこと口を付け続ければいいのか?

 どこで学ぶんだそんなこと。

 俺のいた世界の学校でも、そんな話題は上がってなかったし。

 皆知らなかった? まさか。カップルになっている男女はそれなりに居たはずだ。

 皆どこで学んだんだ。本か? 図書室にあったかそんなの。

 というか、俺の口今大丈夫だろうか。

 口の中はきんの宝庫だ。時間は短いが起き抜けともなれば相当な惨状が広がってないか?

 どこで消毒してるんだ皆。

 いや、だからこその口付け、口の接触だけなのか。

 口腔こうこう内に入らなければ感染はないか?

 というか、どんだけのこと考えてみんな事に及んで……



 ………………「どんだけ」は俺か。

 どんだけ待たせてんだ。



 恐る恐る、パールゥを見る。

 そう、何故かここでやっとパールゥを見た(今までどこを見てたんだ俺は)。



「………………」



 ……パールゥは、ただ待っていた。

 夜色のベールが下りた中、静かに目を閉じ、あごを少し上げ。

 体をこちらに向けてベッドに座り、少し肩をすくめるようにして両手を片膝かたひざに置き。

 肩で小さく、わずかにウェーブのかかった髪を揺らしていた。



 いや――



「………………」



 ――――知らず、その両手に触れていた。



 パールゥがビクリと体を震わせる。

 肩はいよいよすくめられ、震えは両手から更にハッキリ感じられる。

 やはり緊張していたのだ。



 無意識に、パールゥの胸に目を落とす。

 きっと心臓は、先の比でないくらいに早鐘はやがねを打っているのだろう。

 しかし、左手に感じるその震えは何故か、



〝けいにーちゃん〟



 ――何故か、全く違うものを俺に想起させて。



「…………。ありがとう、パールゥ」



 包み込むように、わずかな力でその手を握る。



「パールゥのおかげでプレジアは、俺は今生きられている。いくら感謝してもし足りない。本当にそう思ってる」



 右手を肩へと伸ばす、



「……そんな英雄(・・)に、途方とほうも無く身勝手な借りに、返せるものなんて持ち合わせてないけど」



 ――伸ばしかけて、咄嗟とっさに内へとひねる。

 先駆けて指先がほおに触れ、パールゥがザワリと反応した。



「お前が…………望むというなら、」



 より強く握られた両手をより強く握り。

 右手をより奥へり彼女の顔を、体をこちらへ引き寄せて。



 スゥ、と。



 小さな一呼吸に、合わせて――――俺はパールゥへ口付けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ