「報酬交渉」
「…………」
パールゥが、俺の左胸に手を当てる。
切なそうに笑う。
「……やっぱり、私ではドキドキしてくれないんだね」
「しないよ。申し訳ない気持ちでいっぱいだってのに」
「……意地が悪いね。こんなに優しい癖に」
「代わりがいないだけだ。マリスタの時みたいにな」
「……マリスタも、こうやってケイ君に泣きついたってこと?」
「嫉妬するなよ……マリスタの時は代わりがいたと言ったろ」
「ふんだ。……他の子の名前出す前に、約束の方。先に果たして欲しいんだけどなぁ」
「……約束?」
「やっぱり覚えてないんだ。もう。ばか」
「っ。何やってんだおい。悪かったって――いつの約束のことだ?」
俺の胸を頭で小突き、そのままぐりぐりとやっていたパールゥが止まる。
少し拗ねた顔を上げ、パールゥは小さく口を開いた。
「『ギリートに勝ったら、俺はお前に口付けをする』って。ケイ君、舞台裏でそう言ったんだよ」
「……あ」
思い出した。
そうだ……痛みの呪いを抑える条件が解らず、環境の全てをイベント「ラブバルーンファイト」とやらの時と同じにしようとして――そんなことを言ったんだった。
「勝ったよね? ケイ君は」
「……俺自身、あれを勝ったとは」
「思ってないとか禁止っ。あの劇の直後からイグニトリオ君、やけにマリスタ達に協力的になってたし。ケイ君のおかげなんでしょ? ちゃんと見てるんだからっ」
「なんでそんなのを見てる……」
「見てるよっ。そうやって有耶無耶にされたらイヤだから」
「…………はあ。分かったよ。約束は果たす」
「その上で、借りもちゃんと返してもらうからね?」
「……おう」
「じゃあ………………はい」
ベッドに腰掛けたままの姿勢で、パールゥが俺を受け入れるように小さく腕を広げる。
意味を測りかね、俺は動きを止めてしまった。
「……何だ? 来るなら来いよ」
「そ、そんな戦いの時みたいな言い方しないでくれるっ? 情緒が無いよ! というかキスするって言ったのに私からいくの!? これじゃ『キスする』じゃなくて『キスされる』じゃない!」
「そんなことまで約束した覚えは無い」
「あーそういうこと言うんだ!? ズルいよ! 口付けっていうのはね、ただ口を付けるだけのことじゃな」
「声が大きい、静かにしないと起きるぞ皆」
「ああもうそうやって――――分かったもー分かったっ! じゃ借りもここで返してもらうっ」
「? 借りも?」
「そうだよっ!…………キスして。ちゃんとっ。ちゃんとしたキスをしてっ!」
「ちゃ、ちゃんとと言われてもな」
「…………初めてなの?」
「うっっさい、目ん玉ひん剥くなそんくらいで。お前だってそうなんじゃないのか」
「い、いや、ちょっと意外過ぎて…………ふふっ。あはは……なんか。もう雰囲気も何も、あったもんじゃないね。本当に好きになって貰わないと、そんなキスは難しいのかなぁ」
「……パールゥ、悪いが俺は」
「言わなくていい。………………じゃあ、して。ケイ君。約束も借りも、今の私への気持ち全部、全部込めて……キスして」
「・・…・・…………わかった」




