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「心臓は高鳴らず、低鳴らず」



「心臓がね。止まってくのが分かったの」

「!」

「あのとき、心臓を刺されたのもハッキリ分かった。命が抜けて――死んでいく感じがした。ああもうダメなんだ、って、何の気力もいてこなくなって。すごく怖かった。すごく悲しかった。あれが……あれが戦いなんだね。あんな中でケイ君は、みんなは……戦ってるんだね」



 ……徐々(じょじょ)に涙声。

 手に感じられる心臓の鼓動。胸の熱。



 ――今度はしっかりと、胸に手を当てる。



「……大丈夫。ちゃんと動いてるよ、お前の心臓は。お前は死んでない。この先、突然死ぬことも無い。だからもう、泣くな」

「……ごめん」

「謝るな。あのマリスタでさえ、ロハザーと戦った直後は涙が止まらなかったと聞いてる。そういうものなんだろう。だから謝らなくていい」

「………………かっ。肩……、」

「……気が利かなかったな、悪い」

「ごめん、ごめんなさい……ケイ君の方が、大変っ……大変だったのに」

「今はいいんだ。いいから――気が付けなくてすまん」

「ううん、違う、違う……ごめんね……ごめん……!」



 体を起こし、しなだれかかってくるパールゥを受け止める。

 肩が温かくれていくのが分かった。



〝わ、私っ…………アマセ君と、友達になりたいのっ〟



 最近の印象が強すぎて、すっかり忘れていたが……元々は大人しく内気そうな性格だった一介の少女に過ぎない。

 こんな小さな体と心で生きている少女に――――



〝やっぱり――あんたが頼れるのは、わたししかいなかったってことなのね?〟



 ――少女()に、俺は一体どれ程の負担を強いてしまったのか。



 やはり俺は英雄ではない。

 こんな体たらくで英雄などと呼ばれたくはない。

 呼ばれる資格はない。



「……でもね。倒れた後、君の顔を見た時は……怖いのとか悲しいのとか、全部。吹き飛んじゃったよ」

「俺の?」

「だって君の顔……すごくキラキラしてたんだもん。勝った、って」

「――そうだったか? よく覚えてない」

「よく顔に出てるんだよ、ケイ君は――――もう少し、こうしていさせて」



 パールゥが俺に強く抱き着く。

 いつか、劇終演後の楽屋で湧き上がった熱は、やはり呪いに浮かされた部分が大きかったのだろう。

 こうして抱き締められ、間近に吐息と熱を感じても……俺の心はそれほどに動じてはいなかった。



 ――借りを、返さなくてはいけない。



 周囲に目をやる。

 幸い、誰一人として起きている様子はない――ビージは既にいなくなってしまっているが。



 リセルは今、どこにいるのだろうか。

 パスは繋がっている……が、こっちを見ているのかどうかは残念ながら、俺からはつかめない。厄介なことだ。



 けど、まあいい。

 見られながら(・・・・・・)であった方が、俺としても妙に感情を入れなくて済む。



 ……落ち着いた頃を見計らい、パールゥをはなす。

 彼女は素直に応じた。

 月明りに微笑ほほえむ顔に、眼鏡はかかっていなかった。



「……借りを返したい。パールゥ」


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