「煮るなり焼くなり、何もしないなり」
「正確には、彼と私……生徒会と風紀委員会の責任で」
ギリートの隣でリアが笑う。
ガイツはオールバックの総髪を撫で付けながら、決まり悪そうにため息を吐いた。
「今回の手柄は学生達のものだ。アルクスはごく一部遊撃に加わっただけのようなもので、作戦の根幹には携わっていない。手柄を横取りは出来ない」
「――という感じでおカタくはあるが。これでも学生にしては良くやったってホメてたんだぞ、こいつは」
「入ってきて早々世迷言を吐くな。ボルテール兵士長」
「今は仕事も終えてオフだから関係ないな。プライベートでもそのローブを着てるお前とは違うんだ」
「あ……姉さんまで。お見舞いに来たの?」
エリダがきょとんとした顔をする。
ガイツに次ぎ、白く短いローブ――いや、あれはもう俺の世界で言うパーカーだな――を身に纏ったペトラ・ボルテールが顔を出した。
「まあね。アマセの意識が戻ったって聞いたから……具合はどうなんだ?」
「大事ない。わざわざ来る必要も無いぞ」
「君さ……アルクスにまでそんな口の利き方してるワケ……? なんでそれが許されるんだ……」
「妬くなよテインツ」
「や、妬いてない!」
「小っさい男なのだわ」
「だから違うって!」
「ほう珍しい。私の足労をねぎらってくれるのか?」
「別に……」
「ふふ……気にするな。見舞いついでに、ガイツの話す内容に興味があっただけだ」
「……ガイツの?」
「見舞いはついでだ。イグニトリオ、テイルハート。お前たちを探していた。捕虜の処遇と……これからのリシディアとの交渉について聞くために」
『!』
周囲の面々が表情を変える。
リアとギリートはただガイツを見た。
「先も言った通り、俺達アルクスは捕虜に手出しはせん。だが助言という名目で口出しはさせてもらいたい――――リシディアとの交渉は、」
「『早ければ早いほどいい』。ってことですよね」
「!」
「解ってますよ。王女がプレジア大魔法祭の前夜祭、つまり四日前からここにいるんだとすれば、お城の方では王女が付き人と失踪して早四日、ってことになる。今頃血眼になって行方を捜してるでしょうね」
「発見が遅れれば遅れる程――それも『王国側が王女を発見した』ということになれば、プレジアは王女誘拐を疑われかねない。交渉時の態度が硬化する可能性もある……聞きだしたいことは山のようにあるけれど、時間がかかればかかるほどリスクは大きくなる。そういうことですね」
「……そうだ。解っているならばいい、一刻も早く交渉材料と場を整えるべきだ。あの女頭目が、王国側に連絡を取っていないとも限らないしな。故に――」
「でもしませんよ。たとえ付き人の方に対しても、手荒な真似は」
「――……言っていられる状況だと思うのか、テイルハート」
「あなた方に集められたときにも聞きましたよ、似たような言葉。でも結局それも穏便に片付いたじゃないですか」
「たまたまな。奇跡は二度続かない。だから少しでも多くの情報が必要だ。万一ここで、襲撃者をけしかけたのが王国の中枢であるような情報を聞き出すことができれば我々は」
「王国の首根を掴むことができる、と。でもそれはしません」
「何故だ」
「あなた方と同じ理由ですよ。兵士長殿」
「……同じ?」




