表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
902/1260

「手心、二人の身柄」

「僕はずっとそう思ってた。この争いが本当にリシディアとプレジアの水面下での戦いであったなら、双方とも無傷で終われる、なんてことはない。必ず誰かが死ぬ、現実はそう甘くはないんだって……いかにも社会の厳しさを知った風にね。馬鹿なのは僕の方だった」



 静かになる。

 ギリートから飛び出したとは思えない卑下ひげの言葉に、その場の全員が注目していた。



「劇の、『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』の中でもあったんだよね、『絶望の中でも、希望を求め続けることは忘れるな』、的なセリフがさ。見事に教えられたよね、君に。アマセ君」

「勝手にひたってろ。俺は何も意図してない。誰も死ななかったのは結果論で――」

「ふーん、じゃなんで生き残ったんだろうね。襲撃者のリーダー、アヤメは」

「だから……」

「心臓。ほぼ無傷だった(・・・・・・・)らしいよ」

『は?』

「……何?」



 信じられない、といった声は風紀委員の男共のものだ。

 ギリートの言葉に驚いていないのは、静かにリンゴを片付けているリアだけである。



「十……何本かだったかな、君はあれだけアヤメに剣を突き刺して、その上体内から剣身を爆裂させたんだよね。体から突き出るほどに。普通心臓もグチャグチャだよ? それがほぼ無傷って言うならさあ、」

「ギ――」

「君が意図的に攻撃外した(・・・・・・・・・)としか考えられないんだけど?」

「な――アマセが意図して、」

「襲撃者の頭ァ生かしたってのか!? 何考えてんだオメー!」



 ベッドから激昂げっこうしたビージの声。

 さっきまでとは異なる感情を乗せた視線が俺へと集まる。



〝何がお前をそこまで突き動かしてるんだ〟



「……またその厨二病ちゅうにびょうみたいなやつ? 自分のことぐらい自分でコントロールできて欲しいもんだけどなー」

「い、イグニトリオ。何の話なんだ、それ」

「ん?……んー話してもいいけど。アマセ君ってさ――」

「無論この先(・・・)の為でしょうよ。この男がそれを考えられないはずが無い」

「――わお。まさかの助けぶね? コーミレイちゃん」

「ちゃん呼びするな気色悪い。貴方だってわかっているんでしょう」



 テインツに向け口を開きかけたギリートがゆっくりとその口に片手をえ、塞ぐようにしながら意地悪く笑う。

 ナタリーはその揶揄やゆを見もせずに罵倒ばとうし、ベッドの俺を見下ろした。



「死闘の最中さなか、無意識下で戦いのあとのことまで考えていらっしゃったとは。まったく頭が下がりますよ。はなはしゃくですが……貴方をあそこに送ったのに間違いは無かった」

「戦いの後……」

「そうだな。お前のお陰で、考え得る限り最善の形で交渉は進められそうだ。ケイ・アマセ」



 全員の目が医務室の入り口に向く。

 クリーム色の質素なドアに体をむようにして入ってきたのはガイツ・バルトビアだった。

 「交渉」……まさか、もう始まっているのか。

 じゃあ、あいつ(・・・)は――



「安心しなよ、アマセ君。王女の身柄は僕らで確保してるから」

「!……僕ら?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ