「ただ対立。」
更に別の場所から、また知らない声。居丈高に飛び込んできたその声は、恐らく貴族のもの。歩み出たグレーローブの少年は右腕の腕章を灯りに光らせ、青筋を立てて『平民』を怒鳴りつけていく。
「貴族制度の終わりとは、このリシディアが相対的地位に基づく王政から、リシディア家を至上の王族とした絶対王政へと変化したことを意味するだけだ! それは貴族の隆盛によって、国の在り方が過渡期を迎えたと読めこそすれ、貴族の衰退を意味するものでは断じてない!! それを勝手に貴族の凋落だ『平民』の解放だと喚きたて、世情を有耶無耶にしているのは貴様らではないか!! どちらが恥晒しだ能無し共が!!」
「あの野郎ォッ!!」
「能無しはお前達だ弱小貴族がッ!!」「キゾクゴッコはヨソでやれ!!!」「無礼が過ぎるぞ『平民』共ッ!!」「一族郎党に至るまで根絶やしにしてやろうか!!」「やってみなさいよゴミクズ共!!」「きゃぁっ!!」「オイやべーぞ!! 風紀委員呼んで来いって!!!」「こ、この場合風紀じゃなくて先生じゃ……?」「どっちでもいいんだよ!! 早く行かねーとマジでけが人出るぞ!!」「もう勘弁ならねぇ!! やっちまえアルテアスさん!!」「ちょ、何言ってんのよあんたたち!! みんなおかしいって!!!」「ふざけるなよアルテアス!!」「テメェはどっちの味方だ!!」「『平民』共に与してみろ、次に没落する大貴族はあんたたちになるぞ!!」「アルテアスさん!!」「アルテアス!!」「な――――何? 何がどうなってんの、どうしちゃったのよみんなっ!!!」
「そもそもだっ、貴族共ッ!!!」
『平民』の一人が通る声で騒ぎを貫き、歩み出て――――座り込んだ俺を指さし、仇でも見るかのように睨み付けてきた。よく見ると、その男子は自己紹介の時に最前列右端に座っていたレッドローブだ。
「こんな素性も知れない奴と一緒にするなよ。こいつが『平民』だって? 冗談も休みやすみ言えよ!! こんな奴と同等に思われるなんて、貴族じゃない俺らだってゴメンだよ!」
「ちょ――アトロ、何言ってるのあんた!!!? ケイはクラスメイ――――」
雷が血管のように二人の間を伝う。
『!!?』
烈火のごとく怒るマリスタがレッドローブの少年に歩み寄ろうとしたとき――――さほど遠くない場所で小さな雷鳴が鳴り、紫の電流が空気を伝った。自然脇に寄った群衆によってマリスタとレッドローブの少年まで続く道ができ、その先に――――いつか見た、ソフトモヒカンの風紀委員の姿があった。
「おいおい、一体どこの『平民』だよ。こんな騒ぎを学校で起こしやがってんのは」




