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「意思不疎通」

 怒り狂う――というより狂い怒った赤毛の少女が、ポニーテールを振り乱しながら叫ぶと――彼女の背後に、数えきれないくらいの水の玉が現れた。



『ちょ、ちょっと落ち着いて、マリスタ! 私は大丈夫だからっ』

『乙女の敵は――――問答無用で粉砕ふんさいですっ!!』



 少女はブロンドの髪を持つ女性同様、けた服の胸元を両手で押さえながら俺をにらみつける。その顔の横ではゆっくりと回転している――球形きゅうけいの水のかたまり



 滞空たいくうした、人の顔ほどもある水の塊。それが少女の声に呼応するようにして――俺へと真っ直ぐに放たれる。



「!?」



 投球のように迫る水を身をかがめ、あわてて避ける。体勢を崩し、四つんいになって逃げる俺の背後で、複数の水玉が弾ける音が聞こえた。



 いいや。水玉というより、あれは――本当に水の弾丸。



『逃がさないわよ変質者っ!』

「! ッ、」



 突然、目元に衝撃。同時に、ぬるりとした不快な感覚。

 しまった、跳ねた泥か――――!



 そう思ったときには、顔面に特大の張り手をされたような衝撃を受けていた。



 鈍い痛み。遠のく音。倒れ込む体。その衝撃も相まって揺れる脳。



 次から次へ起こる超常現象が。衝撃的な記憶が、頭にあふれ返り。

 程なく、俺の意識は暗転した。




◆    ◆




 次に体が沈み込むのを感じたのは、泥の上でもスライムの上でもなく、真っ白で触り心地のいいベッドの上だった。



「――…………」



 ゆっくりと開けた目に入ってくるベッドの天蓋てんがい。俺は体を寝かせたまま、四肢を順にゆっくりと動かし、自分が拘束もされず、五体満足であることを確かめた。



〝――影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!〟



 ……おだやかに目覚めることが出来たのは、きっと喜ばしいことなんだろう。



 手足は付いている。一見した限りでは、拘束こうそくもされていない。

 こんなことを心配しなければいけない日が、まさか自分に訪れようとは。



『あっ、起きた!?』



 安息を堪能たんのうしようとベッドから起き上がらずにいた俺の視界に、大き過ぎる声と共に赤毛の少女が入ってくる。



 こいつのことも、はっきり覚えている。俺を水の弾丸のようなもので吹き飛ばしやがった奴だ。

 そう思うと、急にこれまであちこちにぶつけた体の痛みが鮮明になってきた気が――



 ――痛みが、まるでない。



『と、とりあえず先生呼んでくるね!』



 現れたばかりの赤毛の少女が、今度はせわしなく部屋を出ていく。一度強くゆっくりとまばたきをして、俺は真っ白なベッドから体を起こした。

 目に映ったのは、西洋風にしつらえられた調度品の数々。天蓋付きのベッドが非常によく似合う部屋だ。

 よく見てみても、俺の服には泥の汚れ一つついていない。どうやったのかは分からないが、この世界にはそう――マホウという大層たいそう便利なものがあるのだ。きっと空だって飛べるだろう。考えるだけ無駄だ。



『目が覚めたのね』

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