「核心は突然に」
「あいつはな、俺と王女の前で、『人に絶望させられたから出来るだけ多くの人間を絶望させてから死にたい』、なんてぬかしやがる快楽殺人鬼だったんだ。通り魔と何も変わらない」
「……それと性癖がどんな……」
「俺や王女、パールゥも奴の性癖の対象だったんだよ。奴は俺達を心の底から絶望させて嬲り殺そうとしていた。幸か不幸かな」
「……じゃあ、あなた達はそのおかげで……」
「そのお陰様で命を失わず、ただちょっと心臓を刺されたり腕を切断されただけで済んだ。その通りだ。俺達の策を一つ一つ丁寧に砕き、体力と魔力をじわじわ奪い、真綿で首を絞めるように……俺達の心が絶望に染まり切るのを待ってたんだ、あいつは。それを利用させてもらった。俺とパールゥで芝居を打って、極上の絶望フルコースを再現してやったのさ。それが――」
「あの、治癒魔石を踏み砕かれるまでの一連の動き、だったわけね…………ホントに肝冷やしたんだからね。あなたが殺してくれって言い始めた時は」
「あんたの演技指導の賜物だよ。パールゥも即興でよく合わせてくれた……あんな博打に等しい作戦に」
「……敵が上手いことエサに引っかかったから良かったものの……」
「ああ。あいつが俺達に興味を無くして、仕掛けを終える前に致命傷を貰ってたら終わりだった。エサを撒くのに必死だったよ」
「ティアルバー君との戦いでも、似たようなことしてたわね」
「ワンパターンと言ってくれるなよ。そのくらいしか遣り様がないんだ。何故かいつも、実力ではてんで敵わない奴とばかり戦う羽目になるんでな」
「言わないよ。……毎回毎回、力になってあげられなくて。申し訳ないくらい」
「…………都度力にはなってもらってるし、無理に力になる必要もないだろ。あんたが見るべき生徒は俺以外にもいるんだから。ディノバーツ先生」
「……いいえ。あなたには、もっと目をかけないといけないと思ってる。聞きたいことがたくさんあるのよ、ケイ、あなたには」
「何を改まって……――」
――向けられた視線の色味が、変わったと確信した。
今まで見たことも無い目をして、シャノリアが俺を見ている。
悲しみか、疑念か、疑問か……読み取れない、でも確実に何か、切実な色を湛え、金の長髪を持つ女性は静かに俺を覗き込む。
直感があった。
この目に、真正面から向き合ってはいけない、と。
「……目を合わせなくていいから答えて、ケイ…………あなたが舞台で、イグニトリオ君と戦った時のこと、なんだけど」
「!!」
「ここに来て間もない時、復讐のために来たんだって言ったわよね。私とマリスタと、コーミレイさんの前で。イグニトリオ君の前でも、あなたは同じことを話してた……ひとつのことを除いては」
〝あの日、神が俺に手を差し伸べるまでは――――魔女が俺と共に立つまでは!〟
「……何を馬鹿なことを 。俺は物語を破綻させないように、台本に沿って――」
「あなたに演技指導したのは私よ。だから解る――――あの時のあなたは本物だった。血まみれになりながら復讐を話した時と、同じ目をしていた………………ねえケイ、」
「――――、――っ」
…………やめろ。
「あなたは……魔女に連れられてここへ来たの?」




