「師弟問答、転移奇襲策①」
「軟禁されてたからな、考える時間はいくらでもあったよ。保険序の策だったんだがな、あれは」
「他にも作戦を考えてたの……? ホントすごいわね、あなた」
「作戦なんてとても呼べない博打だよ。俺はアヤメ――黒騎士は王女に絶対服従の忠臣だとみて考えてたからな。王女を懐柔して黒騎士を止めさせる算段だった。何故か俺は王女のお気に召したようだったからな。黒騎士より俺を選ばせることは出来ると踏んだ」
「罪深い男ね……」
「手札を最大限役立てただけだ。結局黒騎士が狂人だったことですべておじゃんだったよ」
「それで、保険の策に出たってこと? でも、よくそう都合よく条件が揃ってたわね。学校も王女も人質に取られてる状況で……アルクスの兵士長達もそれを高く評価してたわ」
「策自体は同時進行してたさ。王女が懐柔出来ないと解った時点で目視できる条件は常に確認していた。だが正直『終わった』と思ったよ。黒騎士が狂人だったことでその保険策も大いに狂わされたからな」
「……全体的にはどんな手はずだったの? その保険策とやらは」
シャノリアがブロンドの髪を揺らし、小首を傾げる。
ちょっとした動きも様になることだ、まったく。
「『転移魔法陣で死角から一突き』。それだけだ」
「……え? 転移魔法陣?」
「ああ。プレジアに沢山ある転移魔法陣、当初はアレを使った不意打ちを考えてた。マリスタ達の『無血完勝なんちゃら作戦』の内容、俺は知らされなかったからな。だが襲撃者共を捕まえるなら、学祭期間中最も人が集まる第二層、それも人前で堂々とだろうと見当はついてた」
「で、でもそんな人混みで捕まえようとしたら、敵だってなりふり構わず一般人に危害を加えようとしたかも――」
「敵は俺達を気絶させ『痛みの呪い』の記憶を抜き取りこそすれ、傷付けはしなかった。そして必ず三人一組で目撃されてもいた。誰かの指示ないし明確な目的に沿って動いている証拠だ。そう考えれば、奴らの動き――『極秘裏の行動であること』、『命は取らないこと』は『気紛れの動き』でなく、『守るべき命令』として立ち上がってくる。マリスタにはナタリーが付いてた、そのくらいは勘付いて助言してるだろう。だったらマリスタの作戦とは、襲撃者共の命令を逆手に取ったものである可能性が高い。だから俺もそれに基づいて策を立てただけだ…………まさか王女をさらって襲撃者共を炙り出すとは思わなかったが」
「そ、それでもリスクは大きい気がするけど……まあ、リスクなしに捕まえられる相手じゃないか。それで、魔法陣から奇襲する作戦を?」
「黒騎士は強い。一撃でマリスタが倒れるのを目の前で見たからな。学生風情が真正面から戦いを挑むのは無謀……となれば不意打ち、奇襲しかない。誰かが――誰かが囮になって指定の魔法陣の前に黒騎士を移動させ、注意を引き付けておきながら別動隊が転移と共に拘束する……劇の会場へ連れていかれる時に少し試してみて、出来ると確信した。誰がやっても成功すると」
「……『誰がやっても』ってどういうこと?」




