「風穴――――雑で歪な収束点」
「――――――、!、――――?」
アヤメの、心臓部に。
「――――きッ――――さま、 、、!?」
「今度は俺が――……あんたに風穴開ける番だ」
背を合わせるようにアヤメの背後に飛んだ俺の身体。
右脇の下から、氷剣は真っ直ぐにアヤメの背中左側から胸部へと貫通した。
手応えはあった。
閃光剣が伸びる気配。
瞬転でそれを避けアヤメの付近から離脱、空中に躍り出て更に氷剣を錬成し、
突き刺す。
「どっ――――!? どこに、」
離脱。錬成。
「貴様――ッ!!!」
突き刺す。
「ぐ、あ、ぁあ――――!!!!?」
離脱。錬成。突き刺す。
「ァ、あァ゛…………ッッッッケ、イ、」
突き刺す。
突き刺す。
突き刺す。
突き刺す。
突き刺す、突き刺す、突き刺す――――――!!!!
「ケイ・アマセェッッ――――――!!!!!!!」
「どうした。ニセモノと呼べよ、ゲテモノ」
「何だ――――なんでお前っ、私の場所へ瞬間移動が――――ッッ!!!」
突き刺す。
「ッッッ――――――アインス、」
突き刺す。
「リュカ、ぁ――――!!!」
突き刺す。
黒騎士に突き刺さる十数もの花色の剣。
突如目を剥いたアヤメは、まるで熱いものに触れた時の反射のように――ココウェルをその左手から手放す。
「きゃああああっっ!!?――――ぁ、あ」
落ちたココウェルを、全霊の力で受け止める。
それでも膝が崩れ落ちたが――どうにか受け止められた。
「そうか……貴様、まさか…………『親石』をッ…………!!!!」
「………………」
「ひっ!? ちょっと、」
――――ココウェルの服を、まさぐり。
拳よりやや小さい琥珀色の魔石を――――携帯転移魔石の親石を、取り出してみせる。
アヤメは、顔面全体を罅割らせるようにして怒り――――嗤った。
「なるほど……あの小娘は、治癒魔石を探していたのでは、なく……親石を!!!」
「あ――あの時服の中に入れられたのって、携転石の親石だったの――!?」
「ッ……! そうか、あの時王女の口は氷で…………は、はは、はははははは……何てこと。最初から、治癒魔石は、オトリだったワケかッ……ぁ゛っ!!!」
アヤメが喀血し、その場にうずくまるようにして四つん這いになる。
体中あちこちから針山のように突き立った氷剣は、彼女に倒れ伏すことをさえ許さない。
「…………は、ははははっ。はははははははははははははははははははははははは!!!!! ッぁ゛ァ゛!!!!!」
「!?」
――アヤメは、立ち上がった。
体の周囲に、得体のしれない魔波をまとって。
否。俺はその魔力を知っている。
〝初めてだ。精痕が発動するほどに追い詰められたのは〟
あのとき、ナイセストが巻き起こした魔波に、感覚が似ている。
恐らくあれは、命を魔力に転換したときに見られる――――
「惜しかったなニセモノ――――ごぼ、ォ……実に惜しかった。後十本もこの身に突き立てていれば、私の意識を完全に刈り取れただろうに!」
「っ……ぐ、ぶっ…………十本だ? 足りるもんかよ」
「――あ?」
「このプレジアで……いやさその生でッ……あんた、一体どれだけの人間を絶望させた?――――――足りるワケねーだろ、あと十本程度で。途方もない数の人間をあんたの異世界に勝手に巻き込んで苦しめて、それがそんなもんで清算出来るワケがねェだろうがッッッ!!!!!」
「それが私の復讐だと言っ「ふざけるなッッ!!!! お前は復讐者なんかじゃない、ホンモノでもニセモノでもないゲテモノ――――ただの狂った人殺しだッッ!!」
「――ケイ・アマセェ――――――ッッ!!!!!」
閃光剣がぶれる。
俺を目掛け、真っ直ぐに伸びてくる。
右腕を凍の舞踏で操り、その拳を伸びてくる光に向ける。
――所有属性武器は形状自在。ただの光に見えても一本の魔装剣であるアヤメの得物とはワケが違う。
「死ねぇッッッ、ケイ・アマセ――――!!!!!」
「――死ぬのはお前だ。口裂け女――――」
「――よく味わえ。今、真の復讐をくれてやる」
――――右手を開く、と同時に。
無数の氷の牙が、体内からアヤメの身体を食い破る。
「――――――――――、」
十数本の所有属性武器から爆裂、伸びた氷の棘が、内からアヤメの身体を、臓腑を骨を滅茶苦茶に刺し貫き、その動きを完全に止める。
光の死が、俺の眼前で魔素と散り。
氷の茨に囚われた黒騎士は、今度こそ声も無く根の上に倒れ伏した。
「――殺したがりが無関係の人間を煩わせるな。カスが」




