「復讐――――許されざるべきその行為」
「……お願いだ。頼む。俺達を助けてくれ」
「ソレガ人ニモノヲ頼ム態度カ?」
「…………お願いします。どうか俺達を」
「焦りが見えないなァ!!? 助かりたくないのかァッ!!??!?!?」
「――――助けてくださいっ。お願いだから俺達を助けてくださいッ!!! どうか、どうかその石をください。俺達に与えてください!!! 何でもします、今助けてもらう為なら俺はあなたの為に何でも致しますッ!!! だから……死にたくない死にたくない、まだ俺は死にたくないっ!! どうか、どうかどうかッッ!!!!」
「見殺セ」
「……え?」
「助ケルノハオ前ダケダ。ソノ女ヲ見殺セ。オ前ノ意志デソイツヲ死ナセロ」
「…………、・・・――」
「それが出来るなら」
裂けた口と目で嗤いながら。
深緑が、アヤメの足元に落とされる。
「取りに来い。その女を見捨てて」
「……………………、…………」
……………………体を、前に。
深緑に、這い寄っていく。
あと三這。
ただ生きることだけを考え。
あと二這。
矜持も恥も捨て。
あと一這。
パールゥさえ、見捨てても――――――俺は、生きた
深緑が、黒に踏み砕かれた。
「…………この世の何より醜悪だな。半端者がハンパに生へしがみつく様は。絶頂の幸福も一度に冷める」
「……………………………………」
――解っていた。
解っていたじゃないか。
奴が外道であること。
奴が、俺達三人を最初から生かして帰すつもりなんか微塵も無いこと。
どこかで、やるだろうと思っていた。
その通りのことが起きた。
それだけだ。
死ぬ。
パールゥも俺もココウェルも、そして恐らくアヤメも。
奴は俺達を殺した後、全力で言い逃れとこの場からの脱出を試みて――――それが叶わなければ、そこで死ぬだろう。
死に臨むその瞬間まで、力の限りの憎悪と絶望を、周囲に撒き散らしながら。
奴は、これを復讐だという。
世界が憎い。世界中の人間を殺してやりたい。
だから出来る限り多くの者に出来る限りの負を植え付け、死んでやると。
そして俺達三人は、その復讐を一身に受けて今、血溜まりに横たわる。
理由は「アヤメの前に現れたから」。
「アヤメの気分で、復讐の対象となる順番が早かったから」。
〝殺す。家族を殺した者を、この俺の手で。必ず〟
………………気分で行われる「復讐」って何なんだ?
復讐は悪だ。
理由をどう正当化してみせたところで、自分のエゴで他人の、その他人に影響され存在するいくつかの生を破滅させ、無限の負を生み出す行いが真っ当なことである筈はない。
恥ずべき。罰されるべき。地獄へ落ちるべき道。
だから俺は、魔女の手を取り魔王を求めた。
この道に堕ちる者など、共に歩くものなどあってはならない。
その他大勢の有象無象に、関わることなど出来ない。
〝ならば何故――――〟
だからこそ、そんな道にいる俺にギリートは問うた。
〝お前は今その有象無象の為に、我等襲撃者と戦っているというのだ?〟
そして、俺は今その問いへの答えを明確に持つ。
〝理由なんてたった一つだ――――これが俺の遊興だから〟
遊興。遊びなのだ。
束の間、牙を削がれることを条件に――――俺は一時、自身が魔王であることを忘れる。
だから笑いもすれば怒りもする。悲しみもすれば安らぎもする。
遊興だから。それが遊びであるから。
だから――――
「――――……!」
――――そうだ。だからだ。
だから、俺はこんなにもアヤメに怒りを覚えたんだ。
出来る限り多くの人間に憎悪と絶望を撒き散らすことがアヤメの復讐。
そうだろう。その通りだ。
そういう復讐もあるだろう。
だが、それなら――――何故あんたは楽しんでいる?




