「惨劇――――あっさりと、終わる。」
「 」
――誰のものとも知れない絶叫。
間抜けな俺は、自分の肩から魔装剣が消えていることにようやく気付き。
腕に埋め込まれているという魔装剣が、体中どこからでも突き出せるなんてことは初めて知って。
でもそんな気付き、もう何の役にも立たなかった。
「あーあ。お前が体を拘束したせいで。上手く心臓を外せなかった」
「――――パールゥッッッ!!!!!!」
跳んだ。
血を散らしながら落ちていくパールゥに向け、辛うじて動く左手を伸ばし、伸ばし、
伸ばした腕が、唐突に視界外へ消えた。
「――――――――――――――、が、ぇ゛」
視界の端が、嘘のように噴き散る鮮血を捕らえる。
遠くへとんでいく左腕。
白くなる視界。
喉から血と共に咆哮を轟かせ、凍の舞踏で動かなくなった右腕を傀儡のように操って伸ばし――――パールゥの身体を掴む。
右腕にも振り下ろされた光の一太刀を精霊の壁で防ぎ、盾の砲手を足場に飛ぶ。
血みどろの俺とパールゥは、魔動石の根の最下層に倒れ込んだ。
「――――器用なもんだな。そんな風に使えるのか、たかが中級魔法を」
「――――、――――、」
「私から治癒魔石を奪い取り、自分たちは回復しながら長期戦に持ち込んで競り勝つ作戦……か。バレバレなんだよ。そして策とさえ呼べない負け戦。お前達ザコが私に勝てるワケ無いだろうがッ!! はははははははは!!!!」
――声が出ない。
体が寒い。血を流し過ぎている。
致死量がどの程度か知らないが、きっと――だが、まだ俺は……
「――ぐ……はッ、ぐっ……」
氷に震える手で左腕、なくなった左腕の切り口を凍結し、全力でなんとか体を起こす。
血の混じった唾液が口から糸を引き、下で俺を見つめるパールゥの顔に落ちた。
「…………ケイ、く……」
「しゃべるなっ……今、止血を……!」
「助ケテ欲シイカ?」
――――――悪魔のような顔で、黒い騎士が言う。
その右手には、白目を剥いて気絶しているリシディア王女。
その左手には、深緑に光る治癒魔石。
その顔が、歯から唾液の糸を垂らして口裂ける。
「跪ケ。泣キ喚イテ慈悲ヲ請エ。――そうすればこいつをくれてやる」
「――――――――」
――――こいつは心臓を傷付けたと言った。
俺に出来るのは凍結による止血程度。
心臓の損傷まで治す力はない。
心臓の構造なんて、勉強不足でまるで把握していない。
よって氷で損傷を補うことも出来ない。
死ぬ。
心臓を治さないとパールゥが死ぬ。
あの魔石。
あの治癒魔石があれば、全て解決する。
パールゥも、何より俺も死を免れることができる。
――――そうだ。生きられる。
あれがあれば俺は生きられる。
欲しい。
欲しい。
痛いんだ。
体が、ずっと、痛くてたまらないんだ。
パールゥの下から染み出してくる血に手を着きながら、体勢を変える。
アヤメの前に這いずり出て…………頭を、地面に、擦り付ける。




