「惨劇――――それはまるで、」
温かな液体が服に染み入り肌を刺激する。
伴い、傷付けられた肉と臓器が激痛を訴えかけ始める。
俺の左脇腹下を貫通した光の剣がそのまま薙ぎ抜かれたのだ。
「ケイ君ッ!!!!」
「どしたどしたどしたァァ! 互角の相手に随分逃げるなァァ!!?」
「…………………………………………、」
血を走らせながら飛び退る。
アヤメはここぞとばかりに追撃してくる。
ココウェルは状況も飲み込めない様子で顔を恐怖と絶望に歪め、ただ大きな口を開けて息と涙を吐き出している。
――見るな。そんな目で俺を。
お前の犠牲なんて、最初から――
〝ふふっ、ってことはやっぱり――あんたが頼れるのは、わたししかいなかったってことなのね?〟
「ッッ……!」
氷弾の砲手。
肉薄してきたアヤメの背後に氷の弾丸を準備する。
奴の目はこっちに夢中、これなら――
「――剣の攻撃がきますゥ。危ないので後ろ行ってください王女様ァ!!」
「!!!!」
「あああああぁぁっっ!!!? いやだいやだぁぁぁぁっっ、、!!!」
――本当に耳障りなその悲鳴に、氷弾の砲手が残らず消し飛ぶ。
それに呼応するように、眼前の黒騎士が狂った笑い声をあげる。
まるで極限まで飢えた獣が肉を眼前にぶら下げられ、猛り狂っているように。
「――糞野郎――糞野郎――――――ッッ!!!」
ココウェルを氷弾の盾にした、その一動作の分先んじた動きで左の剣を構え、アヤメに振り下ろす。
しかし俺には解っていなかった、
「遅いなぁ。無駄な力が入り過ぎだバ~カ」
怒りに狂っていたのは、今の自分も同じなのだと。
時間の流れが違うかのような速度で、アヤメが右の光剣を逆手に持ち替え、放つ。
手首に命中した柄頭での一撃は、振り下ろされようとしていた俺の氷剣をあっさりと外側に弾き、俺は胸を開いた実に無防備な格好でアヤメの、
手首を返した光剣の逆袈裟に、斬り裂かれた。
「が、ぁ゛――――!!!」
「おや浅いな? 胴を両断したつもりだったけどなぁ???」
――血飛沫を上げながら、俺の身体が急速にアヤメから離れていく。
咄嗟に瞬転で後退していたのが幸いしたか。
落下の中で盾の砲手を展開、それを手で掴みなんとか根へとよじ登る。
「っ゛、が、ハァ゛……がはッ……あ゛、げァっ……!!!」
――四つん這いになった胸から、口から血が滴り落ちる。
氷剣を手放し、左手を貫かれた脇腹に当て、凍結させる。
同じように、胸の――胸の傷が、これ、たぶん肺を、
脳天を刃が滑った。
いや、割った。
「づ゛ッッッ!?!?!?! ぁ、あ、ああああ、ああ、あああああ……!!!」




