「膠着――――もう一押しの苦」
リセルは周囲に目を走らせる。
しかし、思い当たる人物は見出せない。
(イベントの時。舞台上。そして今――――環境要因で呪いの減退が起こるにしては、あまりにもタイミングが意図的過ぎる。つまり――――圭の呪いの減退は、誰かが意図的に起こしている現象だとしか考えられない!)
リセルは更に目を走らせる。
「呪いを抑制することができる者」。
「痛みの呪い」が世に絶望を撒き始めて今日まで、そんな能力が開発された話をリセルは一切聞き及ばない。
(呪いを抑える効果を持つ魔術を造った何者かが実験している? いや、わざわざ圭を実験体とする必要が無い。呪いに苦しむ者は他にいくらでも存在するし、圭のように意識が明確でない分よっぽど実験台にもしやすいはずだ――――術者は間違いなく、圭を意図的に選別して魔術を行っている! だが、そんな理由がどこにある? 相手が圭でなければならない理由――――いや。奴と因縁のある魔法世界の住人なんて――――)
「――――――、」
魔動石の間の映像に、リセルの目と思考が止まる。
そこに映るのは、アヤメと斬り結ぶ圭を横目に王女へと近づいていこうとする視点者の姿。
(……同じか? 私と)
――リセルの目が飛ぶ範囲が、捉える人物が少なくなっていく。
ナタリー・コーミレイ。
シャノリア・ディノバーツ。
ヴィエルナ・キース。
パールゥ・フォン。
(痛みの呪いを治療できるやもしれない魔術的何かを持つ者。そんな力が世間に知れればリシディア、いや全世界を揺るがす大発見になってまずプレジアにはいられなくなる。術者はそんなリスクを冒してまで、呪いの抑制を行っている――――そんなことをする理由は一つ。「圭を、助けるため」。であれば術者は……天瀬圭に大小何らかの情を抱いている人物に限定されるはず)
「……誰なんだ。お前は、一体……!!」
「どうしたのだわよシスティーナ。具合でも悪いの?」
「…ううん、大丈夫。ただちょっと、気が重くなっちゃってね」
「重く?」
「今、状況がどうなってるか分からないけど……これが失敗したら、リシディアがまた戦場になっちゃうかもしれないんだなーって思うと。気が滅入っちゃって」
「……ホント。他人事じゃないのだわよね、そう考えると。戦争の世代じゃないから、実感はないのだけど」
「……何事も無く、収まって欲しいな。これ以上、一人でもケガしないで、無事に、……死なないで……」
「おーい運営! 今どうなってんだよー」「だいぶ待ってるよー?」「何かあったんですか?」「私、マジモンの血を見た気がすんだよねさっき。映像でさ……」「マジ? ケガ人出たとか?」「報道委の情報にはンなのねーぞ?」「気になるねー」
「ペルド。もう参加者の不平が抑えられそうにないぞ」
「……連絡待ちだ。それまでは耐えるしかない――ゴホ、っ……」
「リブス先輩……やっぱ黒騎士に襲われた時の傷が」
「大したことは無いし、医療班をこちらに回す余裕も無い、気にするな。それに……こんなものでへこたれていては、守ってくれたアルテアスに申し訳が立たん。――仕方ない、『歌姫』に一肌脱いでもらうことにしよう。かなめの御声をキスキルにつないでくれ」
「は、はい。…………繋がりました」
「リリスティア・キスキル。聞こえるか。………………キスキル? おい、キスキル!」
「っ、? あ、はい、はい! 聞こえてるよ!」
「…………どうした。何か不都合か?」
「いいえ、何も。ごめん、ちょっとボーっとしてて」
「……状況が見えず不安な中だろうが、気を緩めるのはもう少し後にしてくれると助かる――参加者たちが不安に駆られないよう、エンタメの情報を流す。君の発言力の出番だ。頼むぞ」
「――わかったよ!」
◆ ◆
氷光。
光と氷の魔波が、魔動石の間に弾け飛ぶ。
「ハァッ!!」
「はははっ!!」
閃光剣アインスリュカルを、所有属性武器が受ける。
受け切れる。
それほどまでに、アヤメの体力と魔力は落ち込んでいる。
「……くっ……!!」
後、一押しな筈なんだ。
「押し切れないなァ……困ったなぁ!?」
「喧しい……女だッ!」
圧し勝とうと左手の氷剣に力を込め――――逆に押し負け後退。
すかさず氷弾の砲手を連弾するもアヤメも飛び退り、
閃光。
「っ!!!」
巨大な残影を伴って伸びてきた光の剣身を鼻先で躱し落下、盾の砲手を足場に瞬転で肉薄、魔弾の砲手を連発しながら斬りかかる。
「ははは、いい対処法だッ!!――惜しむらくは、」
――神域の剣速、そして体捌き。
弾丸を苦も無く避け斬り裂きながら、アヤメは同時に俺の攻撃にも対処してのける。
結局先と同じく、互いに技を尽くして鍔競り合う。
「チッ……!」
「ははははっ……また膠着だな。だがッ!!」
「っ!? ごォっ――!!?」




