「開戦――――ダンス・マカブル」
「あんたが今やってるのは、王女のお守りでも先達としての手解きでも何でもない。『今この場における自分の快楽をどうすれば最大にできるか』、それだけだ。本能のまま生きる飢えた獣と何も変わらない。そんな奴の言葉を信じると思うか?」
「ははははっ!!」
「あんたは俺が選択するしないに関わらず、俺達全員を殺す。『殺す人間を俺に選ばせる』なんてのは、そこにちょっとしたスパイスを加えようとしているだけに過ぎん。自分で散々言っておいて、俺がそれを考えない訳がないだろうが」
「それで?」
「もうお前の本質は理解した。お前は存在そのものが〝刹那〟だ。今その場が楽しければいい、一つでも多くの悲鳴が聞こえればいい、一滴でも多くの血が流れればいい――――心の底から軽蔑するよ、あんたを。ただただ人間としてな」
氷剣を錬成し、構える。
「いまだに人間として生きながら復讐が成せると考えるのか。底なしに愚かだお前は」
アヤメの笑みが一度小さくなり――――まるで口裂け女のように大きく、大きく、大きく笑みを広げていく。
その目に映るのは、ナイセストのそれにも似た狂喜だった。
「いいだろう。この刹那が正しい絶望を与えてやる」
「ケイ君……」
「お前は一つも選ばなかった。だから全部だ。全部壊す。殺す。奪う。お前がこれまでの人生を全てかけて積み上げてきたもの、培ってきたもの、その悉くを無にしてやる。泣き叫び、地べたを這いつくばり、血と恐怖と絶望で何も解らなくなりながら死んでいけ」
「……大丈夫だ、パールゥ。奴はほとんど死に体だ。二対一で畳み掛ければ必ず勝てる。俺とお前でも」
「……うん」
「ははははは……精々踊れ。私の掌で」
「――行くぞ 」
――魔動石が発光する。
白い靄がかかったようになった魔動石の根。リセルから魔動石の防護結界が発動したとの知らせを受けた。
これで、予想外のものが傷付くことは無い。
「……斬り伏せてやる。お前という壁をな」
……氷剣を片手に。
呪いの疼きを、意識の外へと追いやり。
姫を守る傷だらけの騎士へと、挑む。
◆ ◆
「編成は終わったぞ、ガイツ。いつでも動ける」
「魔動石の防護結界展開も完了です。よほどの攻撃でないと傷一つ付けられないでしょう」
「……突入する」
プレジア最上層、屋上庭園。
学祭最終日、わずかな時間だけ魔動石が顔を出すその場所に、ガイツら「作戦」の関係者達は勢揃いし、隊列の編成を完了していた。
無論、黒騎士の居る魔動石の間へ増援に駆け付け、一息に捕らえる為である。
そして、それを止める手立てを――――リセルはいまだ思い付けずにいた。
「魔動石の間までの時間は? 敵に視認する余裕はあるのか? クリクター・オース」




