「転移――――戦場に立つ『もう一人』」
◆ ◆
「――――私が行きます」
『!』
携帯転移魔石にて、圭の援軍として魔動石の間に転移する者。
その沈黙を破ったのは、校医パーチェ・リコリス――――魔女リセルだった。
「……大丈夫なのか? パーチェ・リコリス」
「その懐疑こそ大丈夫な証ですわ、バルトビア君。敵は私の実力を知らない。あなたのようにね」
「確かに……そうですが。それも可能性の話ですよね? もし調べられていたら――」
ペトラが言う。
リセルは魔石を持つガイツへと歩み寄りながら、ギリートを見た。
「どうかな、イグニトリオ君。君は相手が自分をリサーチしてたと感じた?」
「いいえ全く。素性はともかく、戦闘能力までは調べられてるように感じませんでしたね。彼ら強いですし。学生程度ならやれると思ってたんじゃないですか」
「ザードチップ先生もそう?」
「ああ」
「ですって。戦う校医のことなんて知らないんじゃない?」
「……なるほど。それなら」
「それに、私ならアマセ君が傷を負っても治療できる。敵を過度に刺激しないよう立ち回って、一瞬の隙をついて敵を拘束する――――そんな感じでどうかしら?」
「……迷っている暇も無いか」
思案のガイツが目を開け、携帯転移魔石をリセルに差し出す。
リセルはそれを受け取り、ガイツから少し離れると――自分に向けられた視線全てと目を合わせるかのように周囲を見渡し、微笑んで見せた。
「大丈夫です。必ず――――王女とアマセ君と、ついでにアヤメちゃんを連れて、ここへ戻ってきますから」
摘まむようにして琥珀色の魔石を持ち、顔の前であめ玉のようにいじってみせるリセル。
やがて校医は凛と目を閉じ、周囲の者は祈るようにそれを見守り――――
その手は、急に伸びてきた。
『!!!?』
全員が目を剥く。
泡を食ったガイツが無詠唱で放った仮初の就縛は無情にも空振り、小さな黒煙をすり抜ける。
リセルは、その場に残り。
携帯転移魔石を奪い取ったその人物だけが、掻き消えた。
「――何を考えてるあの子はッ!!」
大声で毒づくフェイリー。
ペトラ、ガイツが目を合わせ、応援のための班を編成しろと指示を飛ばす。
慌てるテインツやシャノリアたちをよそにギリート、ヴィエルナはナタリーへと目を向ける。
ナタリーは目を見開いて固まったまま、立ち尽くすリセルを見ていた。
リセルは、
――顔の前にある拳を握り締め。
苦渋の表情で、ここでないどこか遠くを見つめていた。
◆ ◆
「……何だお前。何をしにここに来た?」




